私学探検隊

知的好奇心を刺激する「大学訪問授業」で「学ぶ楽しさ」を知る!

大学の先生が出張授業!最先端の「知」にふれる

社会学者で武蔵大学教授の千田有紀先生

講義時間は60分。しかし、なかには白熱して3時間に及ぶ先生もいるのだとか(写真は社会学者で武蔵大学教授の千田有紀先生)

中学校で1学年10クラスという大規模校でありながら、男女別学、担任2人制、年間600を超える講座など、きめ細やかな指導を行っている桐光学園。
なかでも、桐光学園らしいといえば、年間20回、土曜日の4時間目に行われる「大学訪問授業」です。「大学訪問授業」とは、政治・哲学・国際社会・文学・科学など、幅広い分野の先生を講師に、同校で講義が行われる授業のこと。2004(平成16)年度よりスタートしたこの講義も、2016(平成28)年度で、240名の先生方が来校しました。
「これほど大規模で、さまざまな分野の先生に来ていただいているのはめずらしいと思います」と語るのは、教頭の中野浩先生。
「大学訪問授業」が始まった当初は、「大学のことを知ってもらおう」というコンセプトのもと、大学で先生をしている生徒の保護者を講師にスタートしたそうです。
それが現在ではマスコミでも活躍する著名人をはじめ、各分野の最先端を研究する方など、さまざまな分野で活躍する先生方が「大学訪問授業」で講義を行っています。ちなみに、近年では、新国立競技場のデザインで最終審査に残った2人の建築家・隈研吾氏と伊東豊雄氏も講師として講演したそうです。
2016(平成28)年度のラインナップと、「過去に講演された方々」をご覧ください。錚々たる方々であることがおわかりでしょう。
先生の人選から講演の依頼までを行っている中野先生は、「文系理系問わず、著作があることが講師に選ばせていただく基準です。生徒たちが著作を読むことで予習となり、講義を聴いたあとは復習、という流れになります」(中野先生)
講師の先生には、「テーマも講義の仕方も自由に」と伝えてあるそうです。つまり、中高生向けに講義の内容を作り替えなくてもよいとのことで、なかには大学生向きの難しい内容や言葉で講義する先生も。
中1に感想を聞くと、「講義の内容はわからなかったけれど、先生が楽しそうに話していたのが印象的だった。学問っておもしろそう」「先生が自分の学問に誇りをもっているのが伝わってきた」とのこと。
「勉強というと、中学受験とか大学受験の『手段』だったり、『難しそう』というマイナスのイメージしかないですよね。でも、大学の先生の話を聞くと、『学問ってなんだか楽しそう』と感じる。正直なところ、それだけでもいいのかなと思います。また、勉強とは一生続くものですよね。『学び続ける』、そのきっかけになればいいと思っています」(中野先生)
一方、進路指導部長の牛久保孝充先生は、「好きなことを見つけて、その道に進んでほしいです。そこで、5年、10年と続けていればそれなりの成果を出せると思います。大学訪問授業とは、ずっとその世界が好きで、その世界で自分の好きな研究をしてきた先生方の姿を間近で見られる機会なんです」と言います。

講義をきっかけに行動力を発揮する生徒たち

中野先生が興味深いエピソードを語ってくれました。詩人で講演時、東大教授だった松浦寿輝先生。10年間ラブコールを送り続けた結果、松浦先生からファックスで「出演します」との返答が。ところが、その後、松浦先生が『萩原朔太郎賞』を受賞、授賞式が大学訪問授業と重なってしまいました。もちろん、授賞式を優先させるものと考えていたのですが、なんと松浦先生、「大学訪問授業のほうが先に決まっていたので」とのことで、大学訪問授業を優先させてくれたそうです。
授業当日、朔太郎賞の受賞を祝い、花束を贈呈することに。贈呈したのは松浦先生の著作を7~8冊読むほど松浦先生のファンだった高3の男子。その生徒は松浦先生が教鞭を執る東大に「絶対合格します!」と宣言。翌年、その言葉どおり東大に合格しました。さらに、入学後、1年生は受講できない松浦先生の授業に出席、先生に大学訪問授業で花束を渡したことを話すと、「覚えている」との返事。そして、先生の授業も「受けていいよ」と許可をもらったのだとか。
また、中3の女子は、松浦先生の「詩をどう読むか」という講義を聴き、「自分は今まで詩というものがどういうものかわからなかった。しかし、詩とは自分の気持ちを飾らないでそのまま結晶化していくのが『詩』だと思いました」との感想を。
「松浦先生はその生徒が言ったようなことはひと言も言っていません。つまり、彼女は、松浦先生の話から独自の視点で詩を理解しようとした。そこがおもしろいな、と思いました」(中野先生)
一方、東大に進むものと思われていた生徒が、東工大の井田茂先生(理学部地球惑星科学科)の話を聴いて進路変更。井田先生のもとで学びたいと、東工大に入学したことも。
さらに、高1から毎回「大学訪問授業」を受講していたという生徒は、内田樹先生(思想家・武道家・神戸女学院大学名誉教授)の講義にとくに感銘を受け、以後、内田先生の著作を読みあさっていたところ、東大の入試で内田先生の文章が出題されたとか。「かなりのミラクルです」と本人も驚きを隠せなかったようです。
「大学訪問授業」は、桐光生の知的好奇心を刺激し続けています。

講義は書籍化されています!

1年間の講義内容は、3月に1冊の本に(左右社)。高3には桐光時代の思い出に、また高1では「課題図書」にもなっています。さらに、2007年から2012年までの授業をテーマ別に編集し直したのが『中学生からの大学講義』(ちくまプリマー新書)。大人にも「響く」内容となっているので、書店で手に取ってみてはいかが?

※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。

桐光学園中学校
[学校HP]http://www.toko.ed.jp
〒215-8555 神奈川県川崎市麻生区栗木3-12-1
☎ 044-987-0519
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