日本女子大学附属中学校
中学校教員 リレーエッセイ【4月】「生命は」
卒業生の訪れは思いがけない喜びをもたらしてくれます。
少し前のことですが、ある卒業生と話していたことが心に残っています。確か私との面接の時間に「全ての人を平等に好きになれない自分が嫌になる」というようなことを彼女が話していたのだと思います。悩んでいたら「私だって顔も見たくないほど嫌いな人もいるのよ」と私に言われて、びっくり仰天。見ていた世界ががらりと変わった、と言うのでした。
全くなんという失言!思いがけないことです。あの時の私は彼女の善良さにすっかり感心していたのでした。何はともあれ、今だったら言わないであろう若い頃の未熟な言葉に、「いい子」の彼女が少しでも救われて生きるのが楽になれたのなら、私にとって、それはとてもありがたいことなのです。
吉野弘の「生命は」という詩があります。この詩の「ゆるやかに世界が構成されている」という言葉に、生きることへの作者の慈愛の眼差しが込められています。夏の花から着想を得た詩ですが、私は春という出会いと変化の季節にこそふさわしいと思います。
若い頃の変化はまぶしいものです。そして年を取ることへの変化も、また悪いものではありません。生命の息吹を感じるこの季節。世界が皆さん一人ひとりを優しく包みこんでくれますように。