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日本女子大学附属中学校

教員リレーエッセイ【9月】映画「破戒」鑑賞記

この夏休み、かねてから気になっていた映画「破戒」を鑑賞することができた。原作は島崎藤村の小説『破戒』である。以前この作品を授業で取り上げたことがあり、新進の若手俳優間宮祥太朗が、被差別部落出身の主人公という難しい役柄をどのように演じるかが興味深かったからである。結論から言えば、彼の熱演には心を動かされる場面がいくつもあり、学ぶことの多い、大切な時間を過ごすことができた。
 主人公瀬川丑松は被差別部落出身の小学校教師。この映画では、情熱を内に秘めながらも落ち着いていてとても誠実な青年教師として描かれていた。相手が教え子の小学生でも乱暴な言葉や砕けた言葉は使わない。貧しい家の子供でも、被差別部落の子供でも分け隔てなく親身に接する。また、たとえ怒りの感情が爆発するところでも決して相手を罵倒するようなことはしない。そのようなところに、どのような人に対しても敬意をもって尊重する姿勢が感じられた。それだけに出自だけで差別してしまうことの愚かさが際立つ。
 丑松は、父の戒めもあり、最初自分の出自を隠そうとする。しかし同じ被差別部落出身ながらそれを明らかにし、さらに選挙に立候補した人権派弁護士を応援する猪子蓮太郎の生き方に共鳴するうちに、今の自分の生き方に疑問を持つようになる。その猪子との会話の中で、丑松は「すべての国民が上等な教育を受けられる世の中になれば、部落への差別などなくなるでしょうね。」と猪子に問いかけるが、猪子は「そうだろうか。よしんば部落差別がなくなったとしても、その時は新しい差別が生まれているかもしれない。」と答える。
 明治期に比べれば誰もが教育を受ける体制が出来上がり、さらに様々な通信手段によって国の違い、他者との違いがより分かりやすくなった。しかしながら相手に寄り添えるような世の中になったかといえば、まだまだ道半ばであるように思われる。複雑極まりない世の中だからこそ多面的な物の見方を身に付け、相手を分かろうとする努力が必要なのである。
(参考文献:キネマ旬報社編「破戒」2022年東映ビデオ刊)

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