社会に出て、力強く生きる大人になるためにアクティブラーニング型授業を実践
桐蔭学園では、2015年度よりアクティブラーニング(以下AL)型授業を導入。その研究の第一人者である京都大学教授の溝上慎一先生が教育顧問として就任し、授業をプロデュースしています。今回は溝上先生に同校におけるAL型授業についてお話を伺いました。
これからの時代は学歴だけでなく社会で通用する力も重要
AL型授業は2012年にまず大学教育の世界で文部科学省によって施策化され、溝上先生はそのフロントで改革を進めてきました。小中高においては、2014年11月、前文部科学大臣が中央教育審議会に提出した諮問の中で初めてこの用語が使われました。日本語にすると「能動的学習」という意味になりますが、これは単に、グループワークに参加するということではありません。「班学習は昔からありますが、リーダー的な子どもだけが一生懸命考えたり、発言したりして、そのほかの子どもは何もしないケースもあります。これでは何のためのグループワークかわかりません。全員参加で個人として協働の力になること、個の協働性を育てることで初めてAL型授業といえるのです」と溝上先生は話します。
これからの時代は、偏差値の高い大学に入るなどの学歴だけではなく、社会に出た時に力強く生きる力を身につけられるかどうかも大切であり、そのためにとくに他者との協働作業のできる能力が必要になります。AL型授業では、主体的な学習姿勢や他者とうまくコミュニケーションしていきながら課題を解決していける力を養います。「まずは個の学習(通常の講義)をしっかり行うこと、次に2人1組のペアワークを行い、授業内容の理解を表現します。これが基本的なALです。次の段階ではグループワークで課題に取り組み、『まなボード』などで学習内容を共有します。続いて、前に出て、まとめた内容を発表します。人前で発言するのが苦手な生徒もいますが、少しずつでも実践できるようになってほしいですね」(溝上先生)
この1年の成果と2年目の挑戦
同校が全教科にAL型授業を導入して1年が経過しましたが、早くも生徒たちが生き生きとした表情で学ぶ姿が見られ、明らかに変化を遂げているといいます。「人前で話すのが苦手な生徒が前に出て発表する時にもポツリポツリと話し始め、周りの生徒もその生徒の方を向いて傾聴の姿勢を取り、優しい言葉をかけてあげるといった温かい雰囲気を目の当たりにしたこともあります。学業成績を上げることだけがAL型授業の目的ではなく、このように人を思いやりながら自分も頑張る人になることが将来、社会で力強く生きていくための基礎になります」と溝上先生。生徒たちが人としてどう変化し、成長していくのかも楽しみなところですが、家庭でもそこを意識した教育をしてほしいと溝上先生は話します。「保護者の関心は学校の成績や大学受験のことに偏りがちですが、全人格的に育てた上での学力だと私は思います。子どもの進学先についても偏差値だけではなく、社会とのつながりをどう見ている大学なのかどうかが大切なので、そこをよく見極めてほしいですね」
AL型授業を行うことは、学習指導要領にある「習得・活用・探究」の学習プロセスを具体化することにもつながります。同校ではその中でも「活用」の段階を教育学者の安彦忠彦先生が提唱する「活用Ⅰ」と「活用Ⅱ」に分けた概念をベースに実践しています。活用Ⅰが習得と関係が比較的強いものであるのに対し、活用Ⅱは活用Ⅰよりも一段上のレベルであり、探究に近い、より高度な思考力や判断力を育てるための学習です。この活用Ⅱに当たるものを単元末の授業でいかに反映していくのかが同校の先生方と教育改革に挑戦していく中での今後の課題だと溝上先生は言います。「国や学者などの専門家たちも揺れている時代に新しい教育を進めていかなければならず、先生たちにとっても一人の力では太刀打ちできない課題もたくさんあります。それだけに先生同士の横のつながりも大事で、教員同士も協働作業が必要になります」(溝上先生)
教科の枠を超えて学ぶAL推進委員の先生方
同校では、現在中高合わせて60名体制の教員によるAL委員と12名のミドルリーダーを構成し、研修を重ね、AL型授業の推進を図っています。AL委員の先生方は当初から推進の力量を買われて取り組んでいるため、短期間の間に大きく変化し、成長を遂げていると溝上先生は言います。「先生同士に深い連帯感が生まれ、ラーニングコミュニティとして成長。教科や部署などを超えて学び合う文化ができつつあることがこの学校ならではの部分なのではないでしょうか。それまでは自分と同じ教科の先生にしか相談できなかったことが他教科の先生にも相談し、意見を求められるようになり、先生方の間にも活気が生まれているようです。優秀で勉強熱心な先生が多いので、私もますますよい刺激を受け、意欲が増しています」(溝上先生)
今後はこの取り組みの成果を進学実績だけではなく、他の「エビデンス」も併せて示していきたいという溝上先生。高校時代にどのように学び、どんなライフスタイルを送っていたのかにより、どんな大学生活を過ごすことになるのかを追跡し、研究してきましたが、同校の生徒たちについても、卒業後も調査を続けていく予定なのだとか。「過去の調査では、高校時代に主体的に学んでいた生徒は大学入学後も積極的な学びを続けていますが、逆にマンガ、ゲームばかりしている、行事に積極的に参加しないといったタイプの生徒は大学に行っても受け身な傾向がデータとして表れています。大学でも引き続き成長し、社会で活躍できる人材を育てていきたいですね」
溝上慎一先生プロフィール
1970年生まれ。京都大学高等教育研究開発推進センター教授(教育学研究科兼任)。2015年、桐蔭学園教育顧問に就任。専門は青年心理学、高等教育。著書に『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』(東信堂、2014年)ほか多数
桐蔭学園のアクティブラーニング
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
桐蔭学園中学校・桐蔭学園中等教育学校
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