日々の、そして総合学習としての「自問自答」で、 想定外のことへの対応力(グローバル力)を培う
グローバル教育に力を入れる同校ですが、副校長の島田逹彦先生が定義するグローバル力は非常に明快です。「真のグローバル力とは、想定外のことが起こったときにどう対処できるか、その力だと思います」と。その同校の教育の原点は「自問自答」。これこそが、真の学力を身につけ、未来を切り拓くために必要なものと考えているのです。同校で実践される「自問自答」について、学年主任の森寿直先生に伺いました。
日々の「自問自答」の核は〝新聞〟〝スピーチ〟〝ノート〟
「創立者・三島中洲に始まる140年の歴史のなかで、二松學舍は〝社会に役立つ人材〟を育成しつづけてきました。時代が変わればプログラムの内容も変わりますが、不変の道標は『自問自答』です」と森先生。
中学でも入学直後から「自問自答」させるための種を蒔いていきますが、その種とは以下の3つです。
◆毎日、新聞を読む
中学前半では一つの物事を複眼的に見るために、毎朝、読売・朝日・毎日の3紙のコラムをコピーしたものを全員で読みます。最初のうちは先生が解説していきますが、「天声人語」などのコラムを書き写し、生徒にタイトルを考えさせることも。
中学後半になると、さまざまな記事について生徒の意見を発表させます。批評する力をつけていくためです。それを毎日積み重ねていくと点と点が結ばれ、生徒の視界も広がっていくといいます。「先日も、中3生が、『トランプがこんなこと言っていたけど』と、アメリカ大統領選についておしゃべりをしていましたね」
◆日直がスピーチをする
帰りのホームルームでは、日直が1分間スピーチをします。テーマはさまざまですが、中1は仲間とのつながりや生活習慣を築くために〝気づきを築く〟をキーワードにしているとか。「クラスの問題として、今日良かったことと悪かったことを発表し、明日の課題にするのです」
ですから先生も、「ずっと置きっぱなしだったものを、○○君が気づいて片付けてくれたよ」など、誰もができることなのに、なかなか行動に移せないことを見逃さずに誉めるのだそうです。そうして〝集団の中で自分は何をするべきか〟という気づきを生徒に促していくわけです。
中3になると「こんなものがあったらいいな」というテーマも出てきますが、科学技術に関するものだけでなく、思想や政策といったことにも発展していくそうです。
◆365ノートを書く
「365ノート」とは家庭学習用のノートのことで、1日1ページ以上学習し、毎日担任に提出します。苦手な教科の振り返りやくり返し学習、テスト勉強など、内容を自分で考えて取り組み、計画的、継続的な学習習慣を身につけていくのです。
総合学習での「自問自答」の核は〝地域〟〝日本〟〝世界〟
そして、「自問自答」は毎週土曜日に2~3・5時間連続で行われる総合学習でも実施されます。
◆中1「沼の教室」で地域を知る
中1の1年間は、学校に近い「手賀沼」について学びます。その学びは、じつに多岐にわたります。「手賀沼は1974年からじつに27年もの間、日本で一番汚れた沼でしたが、なぜ汚れたのか、なぜきれいにすることができたのか、歴史的背景も含めて調べていきます。また、近くには志賀直哉や武者小路実篤に所縁の深い白樺文学館などもあります。この『沼の教室』一つで、〝水・白樺文学・鳥・田んぼ・生活と歴史〟という5つのテーマが融合した学びになるのです」
そして、グループごとに調査したいことを決め、仮説を立てます。その仮説に沿ってさらに調べ、自分なりの答えを見出していくのですが、それを9~12月にまとめて、1~2月に最終発表をします。
「このように、近くの場所一つを知るにも、国・算・社・理のすべての力が必要になり、またさらにそれを外に向けて発信するとなれば英語の力も必要になってきます」と先生が言うように、たった一つのことでもきちんと理解するためには、5教科の力が不可欠であることを生徒たちは実感していくのです。
◆中2「古都の教室」で日本を知る
中2で学ぶのは日本文化です。調べ学習を終えたら、本物にふれるために東京国立博物館に出かけ、お寺や仏像のことを学びます。「〝調べ学習→仮説を立てて自問自答→まとめて発表〟という流れはすべてに共通しますが、現在の中1が中3になる2年後には、良かった発表についてはグアム研修(中3/全員参加)の際に、英語で披露することも考えています」
◆中3「探究論文」で自問自答
そして中3では、1年間をかけて8000字の論文に取り組みます。それぞれが自由に選んだテーマについて自問自答し、自分なりの解答を出すために奮闘するのです。「カンニングの原因はどこにあるのか~科挙と現代を比べて~」「ディズニーランドが舞浜にできた理由~なぜ手賀沼ではなく舞浜にできたのか~」など、タイトルだけで興味を引かれますが、3年間の自問自答の集大成『探究「自問自答」』は、どれも見事な出来映えです。
このように、「自問自答」をめぐる数々の取り組みは、先にご紹介した島田先生が語る「想定外のことが起こったときに、それをどう乗り越えるか」という命題に向かう、〝しなやかな発想とたくましさ〟を身につけさせるためのものといえます。
哲学も科学も、先人たちが「自問自答」を続けたからこそ発展してきました。この根源的な学びの姿勢を生徒に身につけさせるために、同校はじつに実際的な指導を展開しているのです。
二松學舍は、漢学塾だった時代に文豪・夏目漱石が学んでいたことでも知られますが、今年また一人、同校の卒業生が作家として世に出ました。『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香さんです。コンビニでアルバイトをしながら執筆活動を続ける異色の作家ということでも話題になりました。
ここで、村田さんが高1のときに書いた作文を抜粋してご紹介します。タイトルは「理想」です。
「私の理想とは自然体で生きることである。そしてその自然体は別に欠点だらけでいい。だがその欠点を認める強さと、それをカバーする優しさがほしい。今の私は理想をかかげてふらふらするだけのどうしようもない人間かもしれないが、いつか理想の自分に行きつけたらいいと思う。」
高校時代の村田さんご本人の意識の高さを感じるとともに、同校の教育の一端がうかがい知れるような気がしてきます。
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
二松學舍大学附属柏中学校
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最寄駅/
通学に便利な無料スクールバスが4ルート。JR常磐線・東武野田線「柏駅」、東武野田線「新柏駅」、JR常磐線・成田線「我孫子駅」から15分。北総線の4駅(「印旛日本医大」「印西牧の原」「千葉ニュータウン中央」「小室」)からも乗降可。