千葉県・柏エリアの私立中高一貫校座談会
世界で活躍する人材を育てる 私学のグローバル教育
急変する世界情勢にも柔軟に対応し、国際社会の中で持てる力を最大限に発揮してほしい。そんな願いを込めて英語力を強化し、準備した探究的な海外研修プログラム。独自のグローバル教育を展開する千葉県・柏エリアの中高一貫4校の取り組みについて聞いてみました。国際社会に貢献するグローバル人材の育成
編集部 まず、それぞれが目指すグローバル教育の理想について教育理念と合わせて教えてください。
二松学舎柏(折笠彩加先生) 「世に有用なる人材の育成」を目的とした本校の教育の特色は、「論語教育」と「探究教育」です。本校はグローバルコースを立ち上げて今年で7年目に入りますが、昨年度から名称を「グローバル探求コース」とし、探究活動と連動させたグローバルな学びを推し進めています。「Be a change-maker(変革者たれ)」というスローガンを掲げ、自ら課題に取り組んで社会を変えていくためのアクションを起こす資質を磨くことに力を入れています。
流通経済大学柏(舘林あずさ先生) この4月に6年間の中高一貫教育を目指す流通経済大学付属柏中学校としてスタートしたばかりですが、将来を見据えた新たな「未来創造教育」を実践していきます。本校では、「語学力を育成する」「ICTスキルを向上させる」「リーダーシップのマインドを育んでいこう」という3つの柱を掲げ、グローバル教育でもさまざまな仕掛けを構築しています。
芝浦工大柏(安江慶二先生) 2029年に創立50周年を迎える本校は、「創造性の開発と個性の発揮」という建学の精神の下、生徒の自主性を重んじた教育プログラムを展開してきました。グローバル教育では、生徒それぞれの個性を生かしながら、国内のみならず海外大学も含めて世界に選択肢を広げた進路の手助けをしていく。生徒にとって一番興味のあるものは何か、どんな職業に就きたいか、そうした選択肢の幅を日本から世界へ広げるイメージで生徒たちをサポートしていく体制を整えています。
麗澤(松田万里阿先生) 本校は「知識を活かすものは品性と道徳性である」という「知徳一体」の理念の下、心の力(感謝の心・思いやりの心・自立の心)を鍛え、世界に羽ばたく国際的日本人の育成を掲げてきました。異なる価値観や文化をもつ他者とコミュニケートしながら、どうやって共生し、かつ戦っていくか。そのために必要な「グローバル思考で国際社会に貢献できる本物の叡智」を備えるためのカリキュラムを構築し、「コミュニケーションツール」として使いこなせる英語力を身につけていきます。
ネイティブ教員と触れ合い、リスニング重視の英語教育
編集部 どのように英語教育に取り組まれているかお聞かせください。
二松学舎柏 英語の授業数はどのコースにおいても中1・2は週6コマ、中3は週7コマあり、毎朝のモーニングレッスン(25分/0・5コマ)では週2回、英語の時間を設けています。ネイティブ教員(2人)が常駐し、週1回、ネイティブとのコミュニケーション中心の授業があります。中1はフォニックス(発音と文字の関係性を学ぶ音声学習法)を採用しているのですが、4~5月の最初の2カ月間は教科書を一切使いません。小学校で習ったローマ字=英語と思って入ってくる生徒たちは、単語も全部ローマ字読みになっているので、それをできるだけ早い段階で矯正するためです。2カ月丸々フォニックスだけにしたのは昨年度からですが、生徒たちはまずまずスムーズに受け止めているようです。これを利用して、多読本にもチャレンジしています。
流通経済大学柏 本校は週6コマのうち4コマは教科書中心の授業を行います。残り2コマは、2つのクラスに分けてALT(外国語を母国語とする外国人指導助手)の先生と日本人の先生が習熟度別授業を行っています。特に力を入れているのは「ラウンド方式」の授業です。一つのスクリプトを最初はリスニングのみで何度も繰り返し聞いて、2巡目で文字と音声を一致させ、3巡目で初めて音読。4巡目で暗唱し、5巡目で英語で内容を発表し合う。つまり、同じ題材を5回とも違うアプローチで繰り返していく授業スタイルです。初めは英語を単語の意味に頼らず、まず全体の流れが推測できればよしとしています。最終段階では、音だけで理解できたことを英語で伝えられるようになります。また、英語学習アプリ「ELST」を自宅学習(宿題)で活用し、多読アプリの運用も行っていきます。多読アプリの良いところは再生ボタンを押すと読み聞かせのように音声が流れ、辞書機能をクリックするだけで意味がわかること。さらに自分のレベルにあった本をどんどん読み進められること。また、中1の2学期からは、マンツーマン・オンライン英会話の授業(25分)を導入します。
麗澤 中1はいろいろな地域から入学してくるので、どうしてもレベルはまちまちです。本校も、ここからスタートという前提で基礎学力をきちんと磨いていきます。1週間6コマの英語の授業のうち、4コマは日本人教員が担当し、2コマはネイティブ教員によるオールイングリッシュの授業と日本人教員も入れたチームティーチングを中1から行っています。6人のネイティブ教員(アメリカ、カナダ、イギリス)が各学年に1名ずつ配属されています。副担任制をとっており、彼らがショートホームルームで自国の文化を伝えたりクイズ大会をしたり、部活動や掃除にも参加するなど、生徒たちが日常的にネイティブ教員と触れ合える環境ができています。
芝浦工大柏 中学は現在グローバル・サイエンスクラス(GS)と一般クラスがありますが、来年度以降は全員同じカリキュラムで探究を重視した内容に切り替えていきます。中1からネイティブ教員のオールイングリッシュの授業があり、スピーチやプレゼンテーションなどさまざまなアクティビティを通じて生徒が英語を使う機会を多く設けています。また、高校では2014年からアカデミックライティング(学術的文章を書く技術)を導入して、ポスターセッションや英文レポート、参考文献の書き方など大学の論文と同じような指導をしてきました。関東圏では本校が初めて採用しています。
私学の強みを活かした独自のグローバル教育
編集部 自慢のオリジナルプログラムも教えてください。
二松学舎柏 本校では、英語=グローバルではないことと、母国語である日本語を大切にし、自分の考えを自分の言葉として伝えられることが大事と教えています。グローバル探究コースでは、4つの軸を通してSDGsのさまざまな問題に取り組む「NISHO GLOBAL PROJECT」を用意しています。①「アワーアクションプログラム」は、生徒たちが当事者意識を持って社会問題に取り組み、仲間との学び合いの中で課題解決に向けてアプローチしていきます。内容を深めるため、敢えて日本語オンリーのプレゼンテーションを行います。②「パワーアップイングリッシュプログラム」は英語に特化したプログラム。海外研修に向けて年2回(夏・冬)の英語集中講座を行い、世界で通用する英語力を強化します。③「スペシャルラーニングプログラム」は体験を通して異文化理解を学ぶもの。世界で活躍するさまざまなチェンジメーカーのグローバル講演会や施設見学での体験学習を実施しています。④「スタデイアブロードプログラム」はカナダ、オーストラリア、セブ島の海外研修プログラム(希望制)。中学3年間に一度は海外研修に出かけようと推奨しています。
流通経済大学柏 本校が語学力をつける仕掛けとして考えたのは、「世界と繋がる空間を持つ」仕組みです。1つ目は図書館の中に設けた「イングリッシュラウンジ」。ALTの教員2名が昼休みと放課後に常駐している英語オンリーの空間です。最初は躊躇していた生徒たちですがイングリッシュラウンジに行って自己紹介をしてくるという宿題を出したところ、それを機に2度3度と足を運ぶ生徒が増えてきました。もう1つは「バーチャル留学ルーム」。大画面のスクリーンやプロジェクター&カメラが設置されていて、海外の学校とオンラインで繋いで日本にいながら国際交流ができる部屋になっています。姉妹校関係にあるフランスの名門オンブローザ校で日本語を学んでいる生徒たちと繋いで、国際交流を行おうという計画が進んでいます。また、体験重視の「総合的な学習の時間」では、古典芸能の能を見に行くなど校外活動を取り入れていきます。国語科の古典や社会科の歴史、音楽科の邦楽と絡めた調べ学習を行って、最後の発表を英語で行うような教科横断的なグローバル教育に発展させていこうと考えています。
麗澤 本校は「言語技術」という独自科目(週1回)があります。つくば言語技術教育研究所の全面的な協力を得て実践研究してきたもので、あらゆる学びに必要な「聞く力、読む力、話す力、書く力」を体系的に身につけていく科目です。絵画や文学作品の分析や説明、情報処理など、毎回新しい課題について議論したものを文章化する訓練を繰り返します。文章化するための論理力や構成力などは社会生活に必須の、本校で最も大事にしているスキルです。この書く力の基礎を中学段階でしっかり身につけ、高校でさらに強化していくことが重要だと考えています。そうした考えから、中3の英語では1年間を通してネイティブ教員によるパラグラフライティングを実施しています。生徒の文章をネイティブ教員がチェックするのですが、単純な添削ではなく、エディティングマークスで間違いを指摘するだけで正解を教えない。生徒はどこが違うのか自分で考えて再提出して、完成するまで延々とその作業を繰り返します。どうしてもわからない時でも英語で尋ねるのが原則。ネイティブ教員は英語で言わないと対応してくれません。最初は翻訳機能に頼っていた生徒も、何度も書き直す過程を通じて、自分で考える癖を身につけていきます。
芝浦工大柏 授業でケンブリッジ出版の教科書を使用し、昨年度からケンブリッジ英検を導入しました。学校全体で導入するのは全国初の試みです。普通の英検との違いは暗記式でないこと、判断力や思考力を試される試験であること。現在2人のCELTA(ケンブリッジ大学英語検定機構が認定する、英語を母国語としない人に英語を教える英語教授法資格)がいて、すべてのセッションを英語で行う、ダイレクト・メソッドと呼ばれる直接法を実践し、生徒から発見や違いを引き出したり、考えさせたりするケンブリッジ式にしていこうと考えています。
異文化に触れる多彩な海外研修プログラム
編集部 グローバル教育に海外研修プログラムは欠かせません。コロナ禍が明けて各校とも再開されるようですね。
芝浦工大柏 中3でニュージーランド研修(全員参加)を実施しますが、本校では研修先の学校や授業も生徒に選択させて、ホームステイをしながら現地の生徒と同じ授業を受けています。生徒自身に選ばせる狙いは、自分が何を勉強したいか、目標を考えてほしいからです。実際に海外大学を目指すならば、中3ぐらいまでに情報を与えておかないと準備が間に合いません。その後、高1・2でイギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダの4カ国夏期ホームステイ短期留学(希望制/15~19日間)を実施します。本校は10年以上前からイギリスのUCL(ロンドン大学)と交流を続けており、UCLでは本校生徒のためだけのオリジナルの模擬授業を体験し、図書館などの大学施設を見学します。アメリカのハーバード大学とMIT(マサチューセッツ工科大学)、オーストラリアのグループ・オブ8など、この4カ国プログラムは語学教育に加え大学のキャンパス訪問を主眼としているのが大きな特徴。実際、この短期留学をきっかけにUCLなど海外大学へ進学した生徒も増えてきています。今年の参加者はイギリスが50人、他の3カ国は各25人ぐらい。また、4カ国の大使館の方をお招きして、入学説明会や進学説明会も年2回、6月と10月に実施しています。いわゆる交流中心ではなく、生徒の将来に繋がる海外研修にしたいと考えて約10年前に始めたプログラムですが、年々参加生徒は増えています。
二松学舎柏 グローバル探究コースの海外研修プログラムにはカナダ、オーストラリア(各約2週間)、セブ島(3週間)の選択肢があります。中1で福島のブリティッシュヒルズ体験(全員参加/2泊3日)を行い、中2で選択できるオーストラリアでは自然や動物保護などの社会問題に触れるプログラムです。中3のカナダ研修では、バンクーバー市内を見て回るフィールドワークを重視しています。どちらもSDGsと組み合わせた環境問題や社会問題に関する現地の取り組みについて学ぶ探究プログラムで、中3は英文のワークシートを作成して英語のプレゼンテーションに繋げます。3つ目のセブ島は語学研修がメインで現地では英語漬けの生活。いずれも今年の夏から再開する予定です。
流通経済大学柏 本校では、中3の海外修学旅行としてシンガポールとマレーシア(約1週間)を検討しています。現地の大学や中学との交流は英語力を試す絶好の場です。加えて、本校の母体である日本通運の海外支社の職場見学を計画しています。実際に海外で働いている日本人の姿を間近に見せてもらうことで、国際社会で活躍する“リアル”を体験できるのではないかと考えています。また、国際交流の一環で、希望者を対象にフランスのオンブローザ校との短期交換留学やニュージーランド語学研修も行っています。
麗澤 本校は、中3のイギリス研修(全員参加/約10日間)を探究学習プログラム「自分(ゆめ)プロジェクト」の一環として行っています。事前学習として、家族や日本の伝統文化や遊びを英文でまとめてポートフォリオ化する際も、パラグラフライティングを行っていますし、副担任のネイティブ教員が伊勢神宮や関西のお寺について課題を出すなど、調べ学習と絡めたグローバル教育となっています。事前にまとめておくことで、ホストファミリーや現地の生徒と話すきっかけ作りにも役立っています。
自分の「考え」を伝えるための「使える英語」を身につけよう
編集部 日本のグローバル教育はどうあるべきか。その課題は何でしょうか?
二松学舎柏 私たちは、本校だからこそできるグローバル教育とは何かと考えました。外国語に感化され過ぎてアイデンティティを失い、自分の国のことさえ日本語で表現できなくなっているのが、今の日本社会ではないかと。グローバル教育としながら、本校が特に母国語にこだわる理由もそこにあります。中学段階では日本語の基礎を修めることを重視し、自分を修め、他者や異文化を尊重できるような人材を育てることが、本校が考えるグローバル教育であると考えています。
流通経済大学柏 英単語帳の日本語訳のところにカタカナで読みがそのまま出てくることもありますよね。ふわっとしたニュアンスはわかっても、言葉の意味を深く理解しているかどうかはまた別の問題。結局、知識だけ詰め込んでも、実際に自分の「考え」を「伝える」ことができなければ意味がありません。実践的な「使える英語」を身につけることで、活躍できる世界は確実に広がります。新規開校だからこそできるような慣例を無視した大胆な試みも、職員一同が足並みを揃えて果敢に挑戦していこうと思っています。
芝浦工大柏 外国の方からよく言われるのは、コンフィデンスが足りない、自分に自信を持っていない子が多いという指摘です。思ったことを言えばいいのになぜか黙っていると。それは生徒たちにとって一つの“壁”です。海外研修ではラテン系の国から来た生徒たちに発言の数で負けるんです。日本的な謙譲の美徳は、海外では発信力の弱さにもなり得ます。“壁”をなくすための練習は中1から行っていて、うるさいぐらいにぎやかにしている授業の方が良い。生徒たちには勝手に喋らせておいて、教員は「グッド」や「グレイト」のようなポジティブな言葉を投げかけてファシリテーターに徹しています。海外の授業文化はこんな感じだよと、異文化を経験する感じですね。
麗澤 本校も結構にぎやかですね。学年によってやることは多少変わりますが、なるべく教師の発言は少なめで、生徒が主役で成り立つ授業を目指しています。私の授業ではいつも、やりたいことは躊躇せずに果敢に取り組もうという意味を込めて生徒たちに「risk taker」になれと伝えています。
編集部 ありがとうございました。
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
芝浦工業大学柏中学高等学校
https://www.ka.shibaura-it.ac.jp
〒277-0033 千葉県柏市増尾700 TEL:04-7174-3100
アクセス 東武アーバンパークライン(野田線)「柏駅」「新柏駅」よりスクールバス
「創造性の開発と個性の発揮」を建学の精神に、チャレンジ精神と個性を生かした自由な校風が特徴。知識集約型の教育から課題解決型の探究教育に転換し、文系・理系の枠組みに捉われない課題探究活動を実践。探究活動・グローバル教育・サイエンス教育に注力し、グローバルな人材育成のため、独自の留学・進学プログラムを実施している。
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校
https://www.nishogakusha-kashiwa.ed.jp/
〒277-0902 千葉県柏市大井2590 TEL:04-7191-3179
アクセス 「柏」「新柏」「我孫子」各駅、北総線・新鎌ヶ谷各ルートからスクールバス(無料)
「グローバル探究コース」と「総合探究コース」の2コース制をとり、「人間力の向上」「学力の向上」を2本柱に日本文化とグローバル教育に力を入れている。「自問自答」をキーワードに、「論語」教育や体験型校外学習などを通じて主体性と協同性を獲得。中3では3年間の集大成として、8000字の卒業論文と7分間のプレゼンテーションにチャレンジする。
流通経済大学付属柏中学校・高等学校
https://www.ryukei.ed.jp
〒277-0872 千葉県柏市十余二1-20 TEL:04-7131-5611
アクセス 東武アーバンパークライン「江戸川駅」、つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」よりスクールバス約10分
1985年創立の流通経済大学附属高等学校に繋がる中高一貫校として、2023年4月開校。将来を見据えた「未来創造教育」を実践する。激変している社会情勢の中でも逞しく「国際社会に貢献できる有為な人材」の育成のため、何色にも染まっていない学校だからこそできるワクワク感を持って、慣例に捉われないグローバル教育にチャレンジしている。
麗澤中学・高等学校
https://www.hs.reitaku.jp
〒277-8686 千葉県柏市光ヶ丘2-1-1 TEL:04-7173-3700
アクセス JR常磐線各駅停車(東京メトロ千代田線直通)で「南柏駅」下車、東武バス東口1番乗り場より約5分「麗澤幼稚園・麗澤中高前」下車。
創立者・廣池千九郎が提唱した「道徳科学(モラロジー)」に基づく知徳一体を教育理念とし、「感謝の心」「思いやりの心」「自立の心」を育む。論理的思考力や発信力を磨く言語技術教育と4技能を鍛える実践的な英語教育を軸に、地球規模の視点で物事を考え、能力を発揮できる「本物の叡智」を兼ね備えたグローバル人材を育成している。