私学探検隊

千葉県・市川エリア私立中高一貫校座談会

生徒一人ひとりの個性を大切にする個別最適化した私学の進路指導

生成AI(人工知能)の急速な発達などで社会情勢が流動化し、大学入試方法も多様化している中で、生徒一人ひとりの個性を大切にする私学の進路指導・キャリア教育の現状とは? それぞれ独自の進路指導を行っている千葉県・市川エリアの私立中高一貫校の取り組みについて伺ってみました。

一人ひとりの希望に寄り添う進路相談


編集部 まず、各校の進路指導の方針について教えてください。

日出学園(石川先生) 本校は千葉県内の共学校の中で生徒数が一番少なくて、個性を大切にする少人数一貫教育が特徴。本当に好きなところに行ける、小さな学校で大きな夢が叶えられるというのが、進路指導の肝ですね。 

昭和学院(林先生) 本校はコースが5つに分かれているので、コースそれぞれのカリキュラムに応じた進路指導を行っています。英語に特化したIAコースは海外留学したい生徒が多いので必要な資格取得や英検対策を強化してあげるとか、各コースの特性に応じたサポートが特徴だと思います。

市川学園(吉田先生) 本校の基本理念「よく見れば精神」に立脚して、生徒が一番いきたいと考えている大学への進学を目指すことが生徒の能力を最大化する、という考えで進学指導を行っています。これを前提に、学校としての進学目標として東大現役20名以上、難関国公立10大+国公立大医学部現役80名以上、国公立大現役150名以上という数値を掲げています。

編集部 進路指導をする先生方の仕事内容や、組織体制は?

市川学園 各学年に進路指導の教員を配置して、個々の学習支援やキャリア教育、模試の運営、分析、それに基づくガイダンスなどを行います。担任は個別面談で生徒が何をやりたいのかを引き出してビジョンを明確化し、高3になると、本校は「受験は団体戦」という言い方をするのですが、学校一丸となって最後の目標を突破する。進路指導部はその先導役でもあります。

昭和学院中学校・高等学校
社会科教諭/学年副主任・
教育企画部 林侑紀先生

昭和学院 本校も同様な形で各学年に進路指導担当の教員がいます。学年によって仕事内容は違ってきますが、高1は文・理選択の会の運営、高2、3になると大学研究であるとか。進路指導部以外でも、推薦入試に必要な志望理由書や小論文の作成を国語科の教員が手助けするとか、担任や各教科、進路指導部の教員が連携しながら、個別の生徒に合った指導をしていきます。

日出学園 進路指導の内容や体制はほぼ同じですが、進路指導部も担任も関係なくいろいろな教科の先生が携わっているので、生徒が自分の夢を語れる先生を選んでいくという、生徒の自主性を尊重した進路指導を基本にしています。それが「一人一人に学びを」実現する教育方針に繋がっています。 

成功体験記や失敗談で学ぶキャリア教育ノウハウ


編集部 各校それぞれに進路決定から入試対策までのノウハウを満載したマニュアルを作成されていますよね? 

日出学園 「進路の手引き」ですね。本校の生徒たちはこれを参考に、あくまで自分流に活用していくスタイルにしています。中学時代から「私の記録」と名付けたノートに日々の勉強の成果や学校生活、実現したい夢をその都度書き込んでいて、担任と交換日記ふうにやりとりしています。本格的に「進路の手引き」というタイトルに変わるのは高校生から。

昭和学院 本校は中3から高3までまったく同じ「進路の手引き」を配付しています。前年度卒業生の勉強方法やおすすめ参考書などの体験談を中心に、進路決定から受験まで大枠の年間スケジュールをまとめたものです。個人名を伏せて、高1からの模試の成績や受験校、偏差値なども載せています。

市川学園 中3から渡す「進路のてびき」の他に、本校ではもう1冊、「課外活動のてびき」も全学年に配付しています。本校は、「トビタテ!留学JAPAN」であるとか、生徒が学校の外に出て活動するアクティブラーニング型の課外活動を積極的に推進しています。「課外活動のてびき」は、卒業生が中3から高2ぐらいの間に参加した課外活動体験をまとめたものです。在校生が「この先輩、こんなことやっていたのか」「自分もやってみたい」などの感想をもってもらうことで、進路選びの参考資料になっています。

編集部 キャリア教育の一環で講演会なども多いですよね?

日出学園 講演会に登壇してくださる保護者の方には、あえて失敗談を入れて話してくださいとお願いして協力していただいています。成功談ばかりでなく失敗の実例を話すことで、生徒たちが自分にもできると動き出せるような内容を伝えるようにしています。本校にも市川学園さんのような卒業生の体験記はあるのですが、読みたいと希望する生徒に渡しています。卒業生の「不合格だった大学はここでした」といったリアルな体験談が、後輩たちの心をとらえるようです。

昭和学院 本校は部活動が盛んなので、OBOGが部活にやってきて「大学はこうだよ」という話をしてくれますね。保護者に関しては、毎年6月を生徒・保護者・担任の三者面談月間にしています。ご家庭との連携を大事にしている学校なので、些細なことも含めて密に連絡を取り合いながら一緒に進路の方向性を考えていくようにしています。高3の担任だった昨年は特に、面談だけでなくメールでもなるべく間隔をおかずにタイムリーに伝えるように意識してやっていました。水曜日の放課後を使って大学の生の姿を見学に行くキャンパスツアーに行ったり、大学の先生に本校に来ていただいて生徒が話を聞く進路ガイダンスも、最近始めた取り組みです。

市川学園 課外活動の情報などはClassiなどで生徒に共有しています。学校主催のものでは、外部の有識者を招いて開講する土曜講座が年15講座ほど。5月は、東京大学文学部長の納富信留教授を招いて「『ソクラテスの弁明』を読む」講座などが行われました。

主役は生徒。進路指導のやりがいと苦労は表裏一体


編集部 進路指導をするうえで苦労されるのは、どんなことでしょうか?

市川学園 三者面談で生徒と保護者の意見が合わなくて何時間も費やしたり、高い目標を掲げて結果が追いつかずに悩んでいる生徒と一緒に考えたり。自分がどうありたいのか自問自答しつつ、目標を達成する生徒の成長は、私たちにとって喜びでもあります。苦労とやりがいは表裏一体のもの。「生徒の希望を叶える」ことを第一に考え、生徒の頑張りから力をもらいながらできる限りのフォローをしていきます。

編集部 三者面談で生徒と保護者の考えにズレがある時、先生方はどう対処されるのですか?

市川学園 やはり生徒自身で親を説得することが大事だと思います。以前と比べると、極端な親子の意見の相違は少なくなりましたが、考えが平行線になることはあります。それはむしろ、生徒の成長の表れでもあり頼もしさも感じます。

昭和学院 進路決定の基本は、生徒自身がなぜこの学校を受けたいかという自分の考えをしっかり主張できるかどうか。二者面談でも、受験理由や将来像を含めて「この学校のこのカリキュラムで勉強したい」「この先生の授業を受けたい」とか明確な思いを語れることが大事です。それが曖昧な生徒には「もう1回調べ直してみよう」と再考させます。自己分析と大学研究は必須です。ただ、何といってもまだまだ視野が狭いし、なんとかなるんじゃないかと楽観視し過ぎているところもあって。もっと知識を増やしたりアドバイスできれば、もっと可能性が広がったかもしれないと、歯痒くもあり反省することもありましたね。

日出学園中学校・高等学校
英語科教諭/入試広報部部長 
石川茂先生

日出学園 本校に限らず、将来の夢がしっかり見えている子はほんの一握りです。本校の進路指導として今、力を入れているのは、「合格がスタート、就職がスタートとなる選び方」をしようということです。入試広報部長として私は学校説明会などでも、「日出の入試に合格できた。それがスタートになるような子を募集しています。それ以外の子は来ないでください」と言い切ってしまっています。AIの導入で10~20年後には今の職業が半分以上なくなるとも言われる時代。大人でもなかなか答えが出ないですから尚のこと、進路指導においても、自分の頭で考えさせるSTEAM教育の発想が必要です。本校を卒業して国公立大や難関私大に進む道ももちろんありますが、私は進みたい道が見えている生徒にはむしろ専門職大学を勧めています。情報経営イノベーション専門職大学とか東京国際工科専門職大学とか。そういう生徒は教員が知らないような学校でも自分で調べてきます。

総合型選抜、指定校推薦、一般入試
多様化する入試方法への対応


編集部 最近は入試方法が多様化してきていますが、進路指導にも変化がありますか?

市川学園 国公立大でも総合型選抜入試や学校推薦型選抜(公募制)を導入する大学が増えていますし、それらの入試を受ける生徒も増えています。ただ、難関大の総合型選抜や学校推薦型選抜(公募制)は、生徒自身がどうしてもその大学その学科に行きたいと強い意志を持っていないと難しいですね。こういうことを研究したいのでこの研究室で学びたいと、明確な目的意識が伝わるように綿密な準備と対策をして計画的に臨んでいかないと。入試は多様化していますが、高1から「第一志望の大学を目指して努力することが自身の能力を最大化することにつながる」ことを、生徒にも教員にも徹底しています。初志貫徹が重要だと思います。

昭和学院 本校でも、年内入試で進学先を決めたい安定志向の生徒は増えていますね。ただ、最近の傾向として、推薦型入試で大学側が要求する書類(生徒の学習記録)が増えてきているので、早め早めの準備が必要です。高校の学びの成果を求められていると感じるので、どんな些細なことでもいいから学びの発見や気づきの記録を残そうという指導をしています。あとは、探究活動ですね。正解のない課題に対して問題意識を持ち続けることが重要で、同時に表現力やコミュニケーション力を育むことに繋がります。今後も、自分でしっかり調べて自分なりの考えを喋れるようになる探究活動に力を入れていきます。

日出学園 入試対応の変化は、本校はないですね。指定校推薦を本校はあまりお勧めしない。窓口段階ではむしろ「指定校推薦を期待して入らないでください」と言っているくらいです。準備は大変ですが、総合型選抜入試のメリットは早い段階で子どもたちが夢に向かえるようになったことだと思います。本校では、得意な分野の力を伸ばそうという生徒が増えました。生徒たちがさまざまなボランティア活動に目を向けるようになったことも最大のメリットだと思います。

広がる選択肢。増え続ける海外志望
海外大学希望者へのサポート


編集部 海外の大学を受験する生徒に対しては、どのようにサポートをされていますか?

市川中学校・高等学校
数学科教諭/主幹・進路指導担当 吉田康彦先生

市川学園 コロナ禍が明けて、海外研修への参加者も40名募集プランに対して100名以上が希望するなど、海外大志向の生徒が増えてきている感覚はあります。海外大学に進学した今春卒業生は3名いました。海外大学の場合は、総合型選抜と同じように志望理由書や活動報告書が重要視されますので、サポート体制としてはその書き方講座を開いたり、教員側もノウハウが必要なので研修をしたり、今後に備えた対策を講じているところです。

昭和学院 本校も今春は4名でした。1名は野球留学、残り3名の内の1名は、高1の時から「動物看護をやりたいのでオーストラリアに行く」と理由も明確でした。自分でいろいろ調べて、留学エージェントも探して。海外大学にストレートで入学するにはTOEFLやIELTSスコアが必要なので、ネイティブの教員につきっきりで指導してもらいました。必要な書類も当然英語ですから、これもネイティブの教員に教えてもらいながら作成して。

日出学園 本校も毎年1名ぐらいいます。意欲的な生徒は高校の途中から行きます。まさに昨日、「海外大学に行くから」と1名が中退していきました。私は留学担当でもあるので、「本格的に海外を目指すなら、学校を辞める覚悟で行け」というと、生徒は本気で考えますね。推薦書も私が書くのですが、これが大変なんですよ(笑)。こういう部分が足りないのでぜひ御校で学ばせたいという書き方にしなければいけません。中学受験でも高校受験でも、最近は必ず「日出学園から海外大学に行けますか?」という保護者からのご質問をいただきますが、海外大学の進学実績が出てくるのは今後だと思います。

志望校が決められない、行く道を見つけられない生徒へ


編集部 意欲的な生徒は自ら行動できると思うのですが、そうではない生徒も実際は多いと思います。志望校を決められない、将来が定まらないような生徒には、どんな指導をされるのでしょうか?

市川学園 そうならないように、低学年からさまざまな将来を考える取り組みをしていますが、そのような生徒も一定数いますよね。みんなが受けるような知名度のある大学を受ければいいや、みたいな。世の中そんなに甘くないので、なんとなく大学に入ればいいみたいなことにならないように、個別面談でよくよく話して、どうしたいのかしっかり考えるように指導しています。

昭和学院 自分で決められない生徒は、周りが決めていくと焦って安易な気持ちで流されてしまうことが多いのです。興味のあるものを書き出したり喋らせたり、面談を繰り返して少しずつ絞っていく。焦らせすぎず、でもリミットを決めて。とにかく、安易に決めさせないこと。早く結果を求めすぎずに、教員が待つ姿勢も大事かと思います。

日出学園 そういった進路指導は、みんな同じ悩みを抱えていますよね。だからこそ、中高時代にいろいろな経験を積んで、自分の夢の形や目指すべき方向を見つけることが大事なのだと思います。その意味で、私学の特徴が出やすい探究活動に注目してほしいですね。中学で「総合的な学習の時間」、高校で「総合的な探究の時間」が必修となり、私学は今、どこも探究活動に力を注いでいます。生徒の自主性を尊重していろいろな課題に挑戦できる探究学習に注目して、ぜひ夢を見つけてほしいですね。

編集部 ありがとうございました。

※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。


日出学園中学校・高等学校
昭和9年の創設以来、「誠(なおく)、明(あかるく)、和(むつまじく)」という校訓の下、中学校が1学年約120名、高校でも1学年約160名という少人数一貫教育を貫く。教職員の温かな目が行き届く中で、自主性と個性を大切にしている。

留学した生徒たちが現地の小学生に教えている場面。

https://high.hinode.ed.jp/
〒272-0824 千葉県市川市菅野3-23-1 TEL:047-324-0071
アクセス  京成本線「菅野駅」徒歩5分。JR総武線(快速)「市川駅」徒歩15分または京成バス5分「日出学園」。JR常磐線「松戸駅」から京成バス20分「菅野六丁目」徒歩5分

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昭和学院中学校・高等学校

充実した教育環境のもと、一人ひとりの個性を大切にした学びで、これからの社会に必要な力を育みます。

「明敏謙譲」を建学の精神に掲げ、知・徳・体の全人教育を実践。生徒一人ひとりに合った「学びたい、叶えたい夢」を実現できる5コース編成で個性や意欲を引き出し、きめ細かなサポートで、中高一貫校ならではの個性に寄り添った教育を展開。

https://www.showa-gkn.ed.jp/js/
〒272-0823 千葉県市川市東菅野2-17-1 TEL:047-323-4171
アクセス JR総武線・都営新宿線「本八幡駅」、京成本線「京成八幡駅」徒歩15分(バス約5分)

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市川中学校・高等学校

部活に勉強に課外活動に充実した市川中学校! 学び合う仲間がいるのが特徴です!

「独自無双の人間観」「よく見れば精神」「第三教育」の3本の柱が不変の教育理念。SSHで課題研究に取り組み、医学部医学科志望の生徒が多いことも特徴。2024年度東大合格実績が前年度から倍増するなど、密度の高い独自のカリキュラムが注目を集める。

https://www.ichigaku.ac.jp
〒272-0816 千葉県市川市本北方2-38-1 TEL:047-339-2681
アクセス 「本八幡駅」「西船橋駅」「市川大野駅」からバス

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