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校長対談:香蘭女学校鈴木弘先生・山脇学園山﨑元男先生【後編】

校長対談:香蘭女学校鈴木弘先生・山脇学園山﨑元男先生【後編】

【後編】天真爛漫でいられる、女子校という環境

香蘭女学校鈴木弘校長先生と山脇学園山﨑元男校長先生の対談の後編です。組織論から女子校の意義について、視点も広がりながら話は尽きません。

鈴木:香蘭では今年4月から、今まで以上に組織で動く学校に変えていこうとしています。例えば、これまでは席替え時期ひとつにしても各担任の経験に任せてきましたが、今年からは学年主任を軸とした学年担任会で話し合い、多くの知識と経験を集積した学年運営を目指しています。組織化することで、これまで機能しなかったことや困っていたことに対し、熱心な話し合いも生まれているようです。

山﨑:山脇学園は組織がしっかりしています。ただし、トップダウンでは教員一人ひとりの考える力を削いでしまうことになるので、それぞれ、みんなの考えを出してくれと言っています。もちろん会議は、校長として自分のビジョンを話す場でもありますが、教員一人ひとり、あるいは学年で考えて提案してもらうことを大切にしたいんです。自由闊達な議論ができないと閉塞感が生まれるので、私は独裁者ではないんだよということを伝えています。

鈴木:私は、校長はあらゆる教学面・経営面で、責任を持って最終判断を下すこと、また生徒だけでなく同時に教員も守ること、そして教頭以下各先生方は生徒と触れ合う最前線の業務を責任を持って行うべきだと話しています。先生方には各部署での多くの権限を委譲し、学校を組織運営していきます。そのための教員研修会も行ってきました。これからも続きます。先生方には「プロ意識を持って」、また教職員全体には「チーム香蘭として」一致団結していこうと話しています。

山﨑:一年目だった昨年は山脇学園の実情を把握することから始めました。1ヶ月半くらいしたところで、最初の印象をまとめた意見を管理職会議で披露。その後、8月にキャッチアップをまとめて報告しました。その時、2期制から3学期制への移行を決定し、年間行事の見直しから始めて授業時間の確保に動き始めました。また中2までに中学3年分をやってしまう、かなり早い先取り授業をしていましたが、昔のゆとり教育時に比べて教える内容が1.5倍に増えている現状では早すぎて定着が図れないのが目に見えていたので、進度を緩めようということにしました。習熟度別クラス分けも、例えば4つではなくは3グレードにしようというように、適正な分け方に見直しました。また冬期講習、春期講習の導入や、高3生の直前集中講習を設けました。高3生の直前集中講習の一番の狙いは、1月に学校に来て、みんなでどういう生活をしているかおしゃべりしたり、仲間の顔を見たりすることです。それだけで孤独な大学受験が全く別のものになるんですよ。講習という名前をつけて生徒に登校を促したんです。

鈴木:精神衛生上もいいですね。先生方が講習なさるんですね。
どこの中高にもありがちですが、中学で教えている先生より高校の先生の方が優秀という大きな勘違いがあります。香蘭では、今年度、先生たちの努力に期待し中高の担当を崩し、全学年に分散配置してみました。

山﨑:中高では、高校の内容を教えられる人が中学でその教科の面白さを伝えられる、それが一番いい教員です。高校は教科指導、中学は生徒指導とか、その人の向き不向きとかで振り分ける場合もありますが、両方できてこそ教員だと思います。教科指導とクラス運営、どちらかが苦手な先生も確かにいます。でも、どちらかに決めてしまうと、その人の教員生活の限界を決めてしまうことになりかねません。山脇学園でも今年、中高の先生を混ぜて循環させました。ポテンシャルがあるのに発揮できていないのはもったいないので、先ほどチーム香蘭とおっしゃいましたが、色々な教員でチーム山脇を作っていきたいと思います。

———近年、共学志向が強まり、別学には逆風と言われていますが、女子校には魅力がないのでしょうか。

山﨑:保護者世代は、中高大、ずっと共学で育っている人たちです。社会でも男女一緒にいるのが当たり前だから、中高も共学校でという発想の人が多いように思います。でも逆にいうと別学は6年間、他の性がいないので男女差の固定観念に縛られずに伸び伸びと自分らしく過ごせるメリットがあります。雙葉の先生がおっしゃっていましたが、「共学は大学からで十分」。いい言葉だなあと思いました。また女子校は男子校より数も多いので、中学生受験市場全体の中では影響を受けやすい面もあるでしょう。

鈴木:香蘭は女学校という校名どおり女子に特化しています。女子教育が必要でなくなったら看板を下ろす覚悟のネーミングです。女子校の使命を果たします。アメリカで別学校が見直されて私学人気が復活したように、時代の流れに左右されざるを得ません。でも私学の先進性と独自性があれば、時代の風がどちらに吹いても大丈夫だと思います。卒業生が孫を入れたい学校、子どもを入れたい学校であれば大丈夫です。そのためには時代の要求に敏感になり、応えていかないといけないと思います。
さて、本校ではこれまで以上に自校教育に取り組んでいます。8月1日から9月28日までの2ヶ月間、立教学院展示館(立教大学池袋キャンパス内)で創立130周年の企画展を行います。またこの夏は、ルーツを辿ってイギリスを旅します。立教はアメリカ聖公会の学校ですが、香蘭は英国国教会の聖ヒルダ宣教団が作った学校で、英国のカンタベリーに由来します。そんなご縁で、イギリス国王の戴冠もするカンタベリー大主教は、来日されると必ず香蘭にお越しくださるようです。

山﨑:自校教育や周年行事は、学校がまとまっていないとできないことですね。

鈴木:中高6年一貫教育もそうですが、私学が日本の教育のパイロットとして先陣を切って作り上げてきた教育体制がたくさんあります。男女別学も現時点では、私学の特権になっていますね。しかし、これから先は公立が私学に倣い義務教育でも別学を作るかもしれません。このように、今後も私学がこれまで以上に、独自性・先進性を保持しながら日本の教育を牽引する役割を担っているのです。
中高時代は、異性を意識し始める年代です。女子校は男子の目を気にして自分を繕うのではなく、自由でいられる学校です。先日、キャンプに同行しました。食事の時、「少しならおかずが余っています」とアナウンスがありました。男子だったら味わうことなどせずガーッと口に流し込み、我先にお代わりをもらいに行きます。しかし、女子はどうするのかなと思って見ていたら、女子も同じでした(笑)。元気がいい。男子の目を気にしないので、素の自分でいられるのです。
それから昨年7月、東京に雹が降った日のことでした。にわかに空が曇ってものすごい雨が降り出しました。ちょうど休み時間と重なり、校長室から向かいの建物の中廊下を移動している生徒たちが目に入りました。その中の一人が突然、ブラウスのまま外に出てクルクルと駒のように回り出したんです。雨に打たれて、ブラウスが体にピッタリくっつくまで5秒もかかりませんでした。髪がびしょびしょになっても楽しそうに動き回っていると、その子につられてたくさんの生徒が外に出てきて、みんなで手を繋ぎながら天を仰いで走り始めました。大の字になって天を仰ぐ生徒も。みんなブラウスもスカートもびしょ濡れです。こんな光景は見たことがなかった。そのうち、先生が止めに入りましたが、彼女たちはこの守られた学校の中で、少女の心を出して生きているんだなと初めて実感した瞬間です。
何歳になっても、少年少女の心を失わない人生は素敵な人生です。少女時代に豊かな少女の心を大切に育む香蘭女学校を守っていきたいと思います。

山﨑:まさに、天真爛漫ですね。
授業を受けた生徒が、家に帰って親にその話をし、家族も姉妹を入れたいと思う、親になった時子どもを入れたいと思う、これが一番良い学校広報だと思います。先生方にも、授業が学校の良さを知らしめる最大の広報だよと話しています。
日本の歴史を振り返って見ると、明治維新後、第一次世界大戦後、関東大震災後に、女子校が集中的にできるんです。共通して言えるのは、国難の時代に女子にしっかり教育をして乗り切ろうとしたこと。歴史的にも国の屋台骨を背負ってきたという自負、責任感を持っているのが女子校といえると思います。

———野田聖子大臣が、「女性は、輝きたいわけではなく、普通に生きたいだけ」と講演で話していました。

山﨑:本当にそうですね。

鈴木:香蘭を建てたイギリスの宣教団は、その国の文化を大切にして布教していくという文化があったようです。香蘭の校名の「蘭」というのは、一つには良い香りのこと。良い人のたとえです。目に見えない「香」りは、数値化できないもののたとえで聖書にもあります。人間の力のうち、数値化できるのは10分の1以下と言っても過言ではないと思います。AI時代が来ても変わらないことでしょう。学校に行って、その学校の香りを確かめて、お子さんに合う香りの学校を探して欲しいですね。何か違うと思ったら慎重になっていただきたいと思います。

———これからの時代を生きる女子の保護者に、メッセージをお願いします。

鈴木:僕はいつも、女性はデリケートなものをいっぱい持っている人だと言っています。心と身体両方を安定させながら、自分を理解する中高6年間、神様から自分に与えられた賜物を見出す6年間を別学の中で担保したいと考えています。そのためには聖書が教えてくれることを実行するのみです。また他校の真似をしない、今の香蘭を見てください。女子校としてやれることが、まだまだたくさんあります。

山﨑:中高時代は、人生の中で最も大切な思春期にあたります。偏差値表に縛られず、お子さんと一緒に学校に足を運び、学校を見てから学校選びをして欲しいですね。この時期の男女の違いを、めんどうくさく感じるよりは、異性の目に惑わされない環境で、天真爛漫な6年間を過ごすことで、本来の自分の能力を発揮することができるのではないでしょうか。また子どもを産むというライフスタイルの違いもあるので、その礎を作る中高時代は大切。そういう意味でも女子校は必要だし役割があると思います。

———ありがとうございました。

山﨑先生は、大学では物理専攻でしたが国語の先生に。武蔵、英国イートン校(武蔵在職中に派遣)、海陽中等教育学校と男子校一筋、武蔵では校長もお務めになりました。昨年、請われて山脇学園へ。鈴木先生も、男子校立教中学(当時)数学科でスタートした教員生活を、立教池袋中高校長で締めくくって後の香蘭女学校。女子校の校長に就任して2年目を迎えたお二人は、伝統と革新の二兎を追いながら女子教育に力を注いでいらっしゃいます。女子校についてお話を伺ってきて、人としてどう生きるか、その土台を中高で作りたいという私学人としての原点があればこそ、男子校から女子校という変化にしなやかに対応されているのだと感じました。