特集

ミッション校という選択 ++玉川聖学院・聖セシリア女子・立教池袋の取り組みから++

ミッション校という選択 ++玉川聖学院・聖セシリア女子・立教池袋の取り組みから++

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ある新聞の書評欄で、横山広美さんが『選べなかった命』(河合香織/文藝春秋)を紹介。現在、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授の横山さんの専門は、現代科学論・科学コミュニケーション分野ですが、日本の物理、数学、情報分野に女子生徒が少ないことに関心をお持ちで、早くから理系女子中高生のためのイベントにも力を注いできました。「サイエンスカフェ」でお話をお聞きした、という方も少なくないかも知れません。
横山さんは、小中高とカトリック校である雙葉のご出身。雙葉に限らず、カトリック校、プロテスタント校ではミッション校だからといって信仰を強制されたり、周囲はみな信者であったりということは決してありませんが、日常生活にお祈りがあり、命、神、宇宙といったことを考える環境が自然に備わっているということができます。文系だったという横山さんも、この環境に物理学を志すきっかけがあったようです。
さて、前置きが長くなりましたが、横山さんのこと、命のことを考えているうちに、かけがえのない自分に気づける環境、他者との違いを受け入れる心を大切にするミッション校の教育についてお伝えしたくなりました。
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++++++++++玉川聖学院で育まれる人をつなぐ力+++++++++

■■■車椅子利用マップを作成■■■

玉川聖学院はプロテスタントのミッションスクールです。その教育方針は、
1. かけがえのない私の発見
2. 違っているからすばらしいという発見
3. 自分の可能性、使命の発見

生徒が行動で示した教育の成果をひとつご紹介しましょう。
玉川聖学院高等部に在籍する生徒二人が、2017年、自由が丘商店街の車椅子利用マップを作成しました。自らが車椅子利用者である二人の、学校のある自由が丘が車椅子利用者に優しい街になってほしいと願っての、この行動がきっかけとなり、今年3月、株式会社ミライロ(※1)の「ブレーメンの調査隊」(※2)イベントに同校生徒約50名が参加しました。生徒たちが自ら自由が丘の街をフィールドワークして集めた情報をバリアフリー情報共有アプリ「Bmaps」(ビーマップ)に提供し、自由が丘の情報を充実させました。

※1:株式会社ミライロは、高齢者、障害者などの多様な人々を対象としたユニバーサルデザインに取り組んでいる企業。
※2:「ブレーメンの調査隊」は、全国各地で株式会社ミライロ社が実施している調査イベント。情報のバリアフリーを学ぶ講義やグループワークの後で、実際に車椅子に乗って移動しながら、バリアフリー情報を収集します。

■■■総合科・人間学■■■

また、導入後25年経つ総合学習授業「総合科・人間学」も、玉川聖学院が大切にしているキリスト教的世界観に立ち、人間とは、人生とは、自分とは、を深く考える授業です。思春期や働くこと、女性として生きること、ときにそれらは老いを見つめることや死について考えることにつながることもあります。地球共生、人間社会、サイエンス、芸術・メディア、言語コミュニケーションの5つのテーマごとに分類された実践的体験プログラムともリンクして進路を考えるきっかけともなり、ポートフォリオとして夢につながっていきます。今年度の学校パンフレットに挙げられている体験プログラムの具体例は40にも上ります(※3)。なお保護者のための人間学講座も開講されており、多くの在校生保護者が参加。昨年から受験生保護者も参加できるようになりました(要申し込み)。

※3:体験プログラム事例 アジアの人と会う/被災地の人に仕えるボランティアキャンプ/中東の危機を描く映画の自主上映/車椅子バスケの体験学習/外務省に高校生の声を届ける/韓国の姉妹校とのホームステイ交流など


++++++++++聖セシリア女子で育まれる感性++++++++++

■■■「幸せな人」を作るオリジナルカリキュラム■■■

聖セシリア女子はカトリック校ですが、女子修道会を母体とする学校ではありません。創立者の、カトリック精神を基盤とした女子教育を実践したいという信念のもとに創られた学校であり、校訓「信じ 希望し 愛深く」は新約聖書から採られました。
この建学の精神のもと、「幸せな人をつくる」ことを目指した教育が行われています。聖セシリア女子の考える「幸せな人」とは、「自ら人生を切り開くことのできる知性とそれを生かせる心をもって社会に貢献できる人」のこと。
6年の間に、「幸せな人」として生きていくための3つの学力(読解力・論理力・表現力)を育むカリキュラムの特徴に、学校が独自に設定できるオリジナルの「学校設定科目」が多いことが挙げられます。その一つ、イングリッシュエクスプレス(中2)は、歌、台詞は英語、踊りも学び、年二回ミュージカルを上演するというもの。英語芸術学校マーブルズの協力の下、生徒たちは英語とともに、自分を表現すること、仲間と協力することを学んでいきます。高校では、実践力育成のため「スピードリーディング」「リスニング」などを設置しています。さらに高3ではクロスカリキュラムとして、教養講座を実施。現在、「外国事情」「平和学習」「食生活」「環境科学」「自然科学史」「宗教」「女性史」「アンサンブル」「詩を読む」の9講座が開講されていますが、まさに異分野の学問をクロスする学際的な学びの場となっています。

■■■自己理解と他者理解■■■
確かな学力を育てると共に、心の教育が併行して行われます。
聖セシリア女子では、自分自身を知ること、他者を理解すること、お互いの違いを理解し個性を尊重しあう関係を築くことができるよう、構成的エンカウンターを導入しています。エンカウンターとは、ゲーム的なグループワークをとおして自分を素直に表現し、お互いを認め合う体験のこと。エンカウンターはキャリアプログラムの導入期に行われ、自分の行き方を考えるステップともなります。将来の夢、自分の適性、自己実現のためのキャリアプログラムにおいても、カトリック精神は大きな柱です。行事や部活動、福祉教育・・・、場面はさまざまでも、いつでも立ち返ることのできる精神に基づく、「自分の存在価値を見出し、社会に貢献する」価値観が貫かれていることは、ミッション校だからこそといえるでしょう。


写真左:玉川聖学院の取り組み
写真右:聖セシリア女学園の取り組み

++++++++++立教学院のネットワーク++++++++++

■■■安心してホームステイできる関係■■■■

海外ネットワークを持っていることが強みになることもあります。たとえば立教池袋は、アメリカ聖公会の学校ですが、そのつながりで、26年前から、アメリカのサウスカロライナ州グリーンビル市にあるクライストチャーチ・エピスコパル・スクール(CCES)との間に短期交換留学制度を持っています(中2希望者。2週間)。現地ではCCESの生徒宅にホームステイ、CCESからのリターンビジットも受け入れ、交流します。高等学校にはCCESとの一年間の留学制度もあります。さらに40年以上前の1975年に始まったカナダ聖公会の少年キャンプ派遣に端を発する、サマーキャンプは、現在、アメリカ聖公会の協力のもと、キャンプヒューストン、キャンプスティーブンスに毎年30数名の中2~高1の希望者が参加しています。
これは、兄弟校立教新座中学校との合同プログラムです。
海外での体験は、違いを知る、今の受け入れる一歩になるかもしれません。


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小学校から暁星学園に通った歌舞伎俳優の中村吉右衛門さんが、カトリック校に通ったことを、次のように回想しています。「後に欧米の映画や絵画を見るとき、キリスト教の知識が身についていて良かったとありがたく思う」(日本経済新聞『私の履歴書』)。命や宇宙に思いを馳せることはもちろん、さらに音楽や美術といった芸術により深く親しむ環境もミッション校の特色です。
ミッション校の考える、「人としての生き方」に触れてみることが、学校選びの視野を広げるきっかけになるかもしれません。秋は学校説明会、文化祭など、さまざまなイベントがあります。先入観で学校選びの幅を狭くしてしまわずに、まず、さまざまな学校に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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