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探究から行動へ。地球規模の課題を解決する力を育てる、私学のグローバル教育

探究から行動へ。地球規模の課題を解決する力を育てる、私学のグローバル教育

この春、私たちは新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大によって長期にわたる休校に直面し、学びを止めないことの重みを実感しました。このパンデミックは、世界の「グローバル化」がもたらす課題、しかも誰もが経験したことのない「答えのない課題」を浮き彫りにしました。同時に、「未知の課題に立ち向かう力」を養い、「未来を生きる人材」を育てる教育の真価が問われています。NettyLandかわら版7・8月号では、世界を意識した今だからこそ知っておきたい、私学のグローバル教育を見ていきましょう。

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他者を理解する、課題を考えるツールとしての外国語
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宇宙飛行士、大西拓哉さん(聖光学院出身)、星出彰彦さん(茗渓学園出身)が国際宇宙ステーションに搭乗し、国を超えたチームで活躍した姿に、宇宙への夢をかき立てられたお子様もいることでしょう。また、新型コロナウイルス関連のニュースを見れば、国際機関や海外の医療機関で働く日本人や、さまざまな国の人々の姿が映ります。世界中のアスリート、アーティストたちは、SNSなどで国や人種を越えてメッセージを発信。グローバル社会において「ことば」、特に英語が、異なる環境や文化を持つ人と人が協働する際に必要なもの、あるいはお互いを理解するツールであることを、今さらながら痛感します。

私学の英語教育では、英語の文章を読んだり、会話したりすることに加え、英語を使いディスカッションをするところまで深める学習が展開されています。
聖学院は、英語学習歴に応じたカリキュラムやグレード別指導に定評があり、素材にも社会的出来事を扱うなど、ツールとしての英語習得を目指します。聖ドミニコ学園のインターナショナルコースでは、数学、理科も英語イマージョン。美術と音楽を英語イマージョン教育で行うのは佼成学園女子です。同校のSGコースには、お茶の水女子大学フンボルト入試に合格という成果を示した卒業生もいます。教科学習と英語学習を組み合わせたCLIL(クリル)という学習方法を導入しているのは、英語を「生きるための力」と説く関東学院六浦。また横浜女学院でも、CLILで国際問題を取り上げることが、様々な課題に当事者意識を持つ機会にもなっているようです。神田女学園や和洋九段女子(グローバルクラス)、鷗友学園女子ではオールイングリッシュで英語の授業が行われており、知識ではなく、英語で考え発信できる英語力を育てます。

外国語履修において、第二外国語を設ける学校もあります。例えば英語とともに多くの国際機関の公用語である仏語を学べるのは、暁星や白百合学園、カリタス女子、大妻中野です。日本語教育を行うフランスの高校と、仏語教育を行う日本の高校との間で交換留学を行うネットワーク「コリブリ」を通した日仏間の交流や、学校の枠を超えた国内の交流が行われ、視野を広げています。また、アジアに視点を起き中国語や韓国語・朝鮮語などを選択科目で学べる私学もあります。神田女学園の場合、日本語・英語に「教養としての第三言語」(中3からフランス語・中国語・韓国語のうち一つ選択)を加えた『トリリンガル教育』に取り組んでいます。

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夢や志、好きなことを深めるクラスやコース
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クラス名やコース名が、各校のグローバル人材育成の取り組みを象徴する学校も少なくありません。
2020年スタートの大妻多摩「国際進学クラス」、昭和学院「インターナショナルアカデミー」、意欲的な取り組みが活発に生まれています。これまでも、昭和女子大学附属昭和「グローバル留学コース」、広尾学園「インターナショナルクラス」、大妻中野「グローバルリーダーズコース」、和洋九段女子「グローバルクラス」、国学院大学久我山女子部「CCクラス( Cultural Communication Class)、淑徳「留学コース」(高校から)など、多彩なコース・クラスが支持を得てきました。2021年には、佼成学園でも「グローバルコース」がスタートします。
こうした動きに先鞭をつけたのは、東京女学館の「国際学級」でしょう。現在は語学教育に特化し、世界各国からの帰国生や国内で育った生徒、様々な背景を持った生徒でクラスを構成しています。

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世界標準の教育システムで、世界中とつながる
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国際バカロレア( IB)校として世界標準の教育を実践するのもグローバル教育の一例でしょう。国際バカロレア機構が提供するIBは、グローバル人材に育つ10の学習者像(※1)を示しています。DP(※2)履修後、試験を経て国際的に通用する大学入学資格を得ることができます。認定校は、英語学習はもちろん、世界を意識したプログラムを持っています。MYP(※3)・DP認定校である玉川学園は伝統の全人教育とIB教育を融合した「IBクラス」を設置しています。同認定校の昌平は、世界を意識したプロジェクト学習が探究の場となっています。聖ヨゼフ学園(2020年共学化)は昨年7月に、東京家政大学附属は昨年9月にMYP候補校となり、認定に向けて準備を進めています。茗渓学園は、2016年のDP認定を経て2017年より「DPコース」をスタート。「日本語DP」を行ってきました。そしていよいよ2022年には「オールイングリッシュDPコース」を開設します。
※1 10の学習写像とは、「探究する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念をもつ人」
「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスのとれた人」「振り返りができる人」
※2 DP=Diploma Programme(ディプロマ・プログラム)。IB Diploma(国際バカロレア資格)を取得。16歳から19歳対象
※3 MYP=Middle Years Programme(中等教育プログラム)。11歳から16歳対象

2015年に文化学園大学杉並が、カナダ・ブリティッシュコロンビア州と提携して導入したダブルディプロマ(DD)プログラムは、日本と提携先の2つの高校の卒業資格が得られるというもので、同校 DDコース一期生の国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部、海外大学の合格実績でも注目されました。現在は中2からDD準備コースが設置されています。2020年には、神田女学園がアイルランドと、麹町学園女子がニュージーランド3校、アイルランド1校と提携して、DDプログラムを始動します。同じく2020年にDDコースをスタートさせた国本女子は、カナダ・アルバータ州と提携して同じ校舎の中にKunimoto Alberta International School(KAIS)を置き、カナダに留学しているのと同じ環境でのDDプログラムを導入しました。新学期はオンラインでのスタートになりましたが、「新入生たちは、自らは責任ある行動をするとともに、まわりの人への感謝や思いやり、そして、人と人、国と国との協力関係が大切であることを考えたようだ」と、学校も一期生に期待しています。

世界的な組織や学校同士の交流で、同世代とつながることは、いまの自分への刺激になり、将来の宝物となる経験を得ることができます。そうした機会を得られる私立学校同盟、「ラウンドスクエア」に加盟しているのは、玉川学園、八雲学園、啓明学園、工学院大学附属です
ラウンドスクエアには、国際社会で活躍できる若者の育成を目指す世界50カ国以上から180校以上が加盟しており、「国際理解」「民主主義の精神」「環境問題に対する意識」「冒険心」「リーダーシップ」「奉仕の精神」を理念に掲げています。加盟校はそれぞれ、国際会議への出席や国を越えた同盟校間の交流を行っています。今春の休校中に啓明学園は、ラウンドスクエアが開催した「Zoom Postcard Around the World」に参加し、アメリカ、カナダ、コロンビア、ペルー、ドイツ、イギリスの高校生たちと、それぞれの国の現状と、Stay homeの過ごし方を発表し合いました。
また、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の理念に沿った取り組みや加盟校の交流を行う「ユネスコスクール」に参加している首都圏の私学は、麗澤、国際学院、八王子学園八王子、湘南学園など26校(2019年11月現在)です。 

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視野を広げる独自のプログラム
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グローバル教育にもつながる、魅力ある独自の学びも多くあります。

桐朋女子の「デュアルランゲージプログラム」は、日本語と英語を用いた論理的思考力育成のプログラムです。「言葉の力の育成」、「世界を読み解く力の育成」、「高度な英語発信の実践」が三本柱で、世界で通用する力を目指しています。聖徳学園は、「総合的な学習の時間」でモザンビーク、バングラデシュ、スーダンなどに対する国際協力プロジェクトに取り組んでいます。“今いるところ”でできることを考え行動すること、世界の状況でやり方が変わることも厭わない、プロジェクト型であることが大きな特徴です。「グローバルマインド」育成のはじめに、まず「個」を確立することを据える同校らしい姿勢です。山脇学園の、語学研修と海外留学プログラム「YGEP」には、米国スミスカレッジなどの女子学生を招いて行う、英語によるPBL型授業(※4)も組み込まれています。自分の未来や世界を変えるグローバルリーダーとしての志を立てる契機となっているようです。
※4 PBL型授業=Problem-based Learning、またはProject-base LAerningの「略称。「問題(課題)解決型学習」と訳される

学習院女子や桐光学園などの生徒が参加している、イギリスの名門校イートン校で行われるイートン・サマースクールは、質の高いプログラムで知られます。都内の学校で最も早くから参加してきた巣鴨は、現地での研修も大切にしつつ、国内で現地のプログラムを再現しようと、2017年から巣鴨サマースクール(SSS)を始めました。イギリス人の若きトップエリートを講師に招き、グロースマインドセットを意識して、思考力・協調性・創造力などを育むことを目指しています。残念ながら、現状ではこの夏の開催は難しいでしょう。ただ、SSSでの生徒のマインドセットをともに喜びとしてきた同校国際教育部と講師陣が作り上げてきた絆は強く、この困難をにあっても別の形での実施を検討していると言います。地域や学校の枠を超えた取り組みに発展する意欲も示されており、グローバルマインドとは何かを改めて考えさせられます。

工学院大学附属が提唱する、「グローバル教育(GE)3.0」は、一つの方向性を示唆します。「わかる」から「使える」へ、そして「新しい価値を見いだせる」への進化で、高度な思考力を身につけるべく、PBL型授業やCLILによる英語授業などを実践しています。世界各地の社会事業の経営課題に挑む「プロジェクトMoG」は、同校の特徴的なプログラムです。

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経験が可能性の扉を開く
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海外研修や留学に参加するだけでなく、学校から飛び出してイベントを立ち上げたり、文部科学省や外部団体の企画に挑戦したりする生徒も少なくありません。探究学習や教科で学んだことが、生徒の知的好奇心や社会参加の意欲を刺激するのでしょう。
昨年、静岡聖光学院の生徒は国際会議に出席した経験から「国際未来共創サミット」を自ら主催しました。高校生が世界の同世代と、軽々とつながる行動力を示した例です。聖学院には、中学時代に起業した高校生もおり、「地球人」と自認し、地球規模の課題に自分事として向き合う行動力は、大人の想像を超えるものがあります。

「トビタテ!留学JAPAN」へチャレンジして自分の世界を広げた生徒もいます。今年3月、「第5回トビタテ!留学成果報告会」はWEBでの開催となりました。本庄東の高1生(当時)が、米国シリコンバレーへの8週間留学で夢が明確になったことを発表し優秀賞を、清泉女学院の高2生(当時)が、「幸福度の差って何? ニュージーランドとの違い」として3ヶ月の留学体験を発表し、一般投票で最多得票の特別賞を受賞しました。湘南白百合学園の高2生もアメリカ2週間留学で得た気づきを発表。それぞれの体験は、将来の夢へとつながっているようです。例年、複数名が採用される市川は、「市川アカデミックデイ」の発表で成長を見せつけます。

豊島岡女子学園には、3ヶ月のニュージーランド留学があります。昨年派遣された生徒たちは、留学前からフードロスに取り組み、現地提携校での授業以外に、問題解決のヒントを得ようと精力的に行動。帰国後にはプロジェクトを立ち上げ、フードロス解決のための活動を続けています。
東洋英和女学院では、スタディツアーで訪れたミャンマーを政治・経済面からもより深く学ぼうと、「TEAM(Toyo Eiwa Activities for Myanmar)」という生徒発のプロジェクトも生まれました。
海外での経験を、帰国後、学校で共有し、学びを行動に移していく姿は、グローバル教育の賜物でしょう。

近年、海外大学進学も、進路の選択肢の一つとなっています。品川女子学院の在校生向け小冊子「白バラ世界で咲く」には大学卒業後に海外で働く先輩、海外大学や大学院へ進学した先輩が登場し、後輩を励ましています。
海外大学進学への関心の高まりを受けて、啓明学園、桐朋女子、足立学園などが加盟しているUPAA(海外協定大学推薦制度)、足立学園、田園調布学園、聖園女学院などが加盟しているUPAS(海外大学進学協定校推薦入試制度)もあります。また、昭和女子大学附属昭和の併設大学である昭和女子大学は、同キャンパス内にあるテンプル大学との単位互換プログラムを持っています。

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アフターコロナのグローバル教育
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10代の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが世界に向かって地球温暖化に、世界は手を携えて向き合う必要性があることを訴えたのはつい昨年のこと。学校教育の現場でも、SDGsに取り組み、地球規模の課題を意識する学びが進められてきました。今、私たちはまだ、新型コロナウイルス (COVID-19)感染終息までの途上です。学校教育の現場にも大きな影響が及んでいますが、各私学では、オンラインを活用した対応もいち早く進み、自宅にいながら、できる限り学校生活を再現する努力が続きました。しかしながら、多くの学校行事は中止や規模の見直しなどを余儀なくされ、留学や海外研修、海外でのコンクール等の多くは見送りの一年となるでしょう。先述の「トビタテ!留学JAPAN」の他にも、模擬国連派遣事業、各種の国際科学技術コンテストも開催中止が決まっています。こうした状況下で日本大学豊山女子では、「『あなたは世界にどう貢献するかを考えよう』ということが学習のモチベーションや、困難を乗り越える力になる」と生徒を励ましています。

ここまで見てきたように私学では、語学学習や体験、プロジェクトなど様々な学習・探究活動を通して、学びを行動に変えられるグローバル人材を育てる教育を進めています。その根底にあるのは、国や地域、宗教、イデオロギー、民族、性別といった違いを認め共生する人、自ら一歩踏み出すオープンマインドを持った人の育成という理念です。改めてグローバル教育とは、語学教育・国際交流の別名ではなく、グローバルマインドを育むプログラムであることを再確認しておきたいものです。

ここに紹介したプログラムや教育実践は、単独で成り立つものではなく、その学校にある、様々な取り組みとも連携しています。この視点がきっかけとなり、私学の魅力に迫る一助となれば幸いです。

「かわら版7・8月号」に加筆修正しました。
(市川理香)