市川学園の国際教育
市川中学校・高等学校には、「第三教育」という建学の精神があります。
「親から受ける第一教育」「教師から受ける第二教育」、そして「自ら進んで学ぶ第三教育」。今回、及川秀二副校長にお聞きした「国際教育」にも、意欲的・主体的に学ぶ「第三教育」の精神が息づいていました。
(取材日:2018年10月11日)
□□■充実の国際研修プログラム■□□
市川学園の国際教育プログラムを担う及川先生は、普通ではできない体験を用意していると語ります。
——— 現在の「国際研修」プログラムは、以前は「語学研修」と言っていました。語学を身につけることを目的にするとしたら、2週間は短い。せっかく海外に行くのであれば、語学習得だけを目的にするのではなく、語学は学校できっちり勉強して、それ(語学)をどうやって生かすかの研修にすべきだと考えたからです。
オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ダートマス大学などで行う2週間のプログラムは、一つのテーマについて、ディスカッションし、プレゼンテーションします。例えば、ボストン・ダートマス研修のテーマは「リーダーシップとは何か」。アメリカの専門家の監修による市川学園オリジナルプログラムです。イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学の研修は、先方の大学の先生や学生と行うアクティブ研修です。二週間ずっと、午前中ディスカッション、午後エクスカーション(小旅行)で過ごします。ドミトリー(寮)泊なので、ナイトセッションの、リフレクション(振り返り)と宿題まで、終日、頭も心もフル回転する毎日です。イートン研修はイートン校が提供し運営するプログラムで、首都圏では学習院女子、巣鴨、桐光学園などが参加していますが、現地では男女別に学びます。
ケンブリッジ大学ではピーターハウス・カレッジに宿泊していましたが、このカレッジができた頃、日本は鎌倉時代。生徒は、初めは古さに戸惑うようですが、かけがえのない経験をしたと感じて帰ってきます。さらにケンブリッジでは、ノーベル賞受賞者も多数輩出しているイギリスの物理学研究所、キャベンディッシュ研究所訪問という貴重な体験が待っています。
カナダ、ニュージーランドでの研修も、ディスカッション中心の内容で、現地学校の授業にも参加します。イギリス、アメリカと大きく違うのは、ホームステイであるという点。一家庭一生徒の環境なので、学校でも英語、放課後も英語の毎日、そしてホストファミリーとの交流が魅力です。
海外研修は、ディスカッションはもちろん、エクスカーションでの文化体験、フィールドワーク、自然観察などを組み込み、ただのアクティビティに終わらせません。生涯の記憶に残る貴重な経験なので最高のパフォーマンスを提供したいと考えています。
また国内でも、アメリカの大学生を学園に招く「エンパワーメントプログラム」を実施しています。英・米の国際研修と同等の内容を、1日5時間、5日間の短期集中型で、少人数で学びます。来校した学生が生徒の家にホームステイすることで、交流も生まれています。
□□■アカデミック・ライティングを重視■□□
【市川学園の国際研修プログラム(2018年度)】
・英国 イートンカレッジ(ドミトリー泊) 3〜5年希望者19名
・英国 ケンブリッジ大学(ドミトリー泊) 3〜4年希望者31名
・英国 オックスフォード大学(ドミトリー泊) 3〜4年希望者27名
・米国 ボストン・ダートマスカレッジ(ドミトリー泊) 4〜5年希望者23名
・カナダ バンクーバー・ナナイモ(ホームステイ) 3年希望者42名
・ニュージーランド オタゴ・ダニーデン(ホームステイ) 3〜4年希望者39名
・シンガポール 3年の修学旅行
・国内 エンパワーメントプログラム 4〜5年希望者82名
これらの国際研修は、現地に行くこと、体験することだけで終わりではありません。
——— 以前から海外研修帰国後は文集を作成しています。これも、もう一段階上のステージにあげるべく、昨年から、アカデミック・ライティグ重視にシフトしました。研修日記に止まらないよう、生徒一人ひとりがテーマを決めて、自分が何を言いたいのかを日本語でマッピングしたうえで構成を考え、キャプションを立てて英語でも書きます。丁寧に時間をかけて、添削を繰り返し仕上げています。研修に行く前には、大学の先生を招いてアカデミック・ライティグについて講義していただいています。もちろん、国際研修に行くからといって英語が堪能な生徒ばかりではありません。英語がうまくなるのが目的ではなく、意図をもって文章を書けるように指導しています。アカデミック・ライティグの指導は、いずれ学園全体の取り組みに広げていきたいと考えています。
□□■自分オリジナルの海外体験■□□
ここ数年、生徒は学校外のプログラムにも積極的に参加するようになっています。結果的に年間200名を超える生徒が海外体験に一歩踏み出していることになります。
———— 国際研修はじめ、海外プログラムに参加している生徒は、年間でのべ220人を数えます。海外に一歩踏み出す生徒は、自分を変えたい、何かに強い関心がある、あるいは自らの将来を見据えて、この体験を踏み台に、一つ上に行きたいと考えているようです。
文部科学省の派遣プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(以下「トビタテ!」)」には、昨年6人、今年7人が選ばれ、世界にトビタちました。
前年の10月に学内説明会を行い、そこから留学計画を練り上げます。生徒はこの過程で自らの将来、そして自分のアイデンティティについて深く掘り下げて考えていきます。
トビタった生徒は大きく変わります。
その一つは、帰国後、周囲に“伝染”させる力を発揮するようになることです。「トビタテ!」では、日本をアピールするアンバサダー活動と、エバンジェリスト活動(啓蒙活動)を参加者に求めますが、生徒は誰かに言われなくても、帰国してからの体験を誰かに伝えたい思いを抑えきれないようです。
研修から帰国すると、生徒はよく「くよくよした最初の一週間がもったいなかった」と言います。最初の一週間は、英語が伝わらないことや、アジア人への偏見などに直面して落ち込むものの、アイデンティティや、「何を伝えるか」「あなたは何者か」「日本人として、自分が将来何をしたいのか」を深く考え、コミュニケーションを取ることにも慣れて来る一週間目の後半から、ネガティブに落ち込んでいたことが陳腐に思えてくるんですね。最初の一週間の後悔、そこから立ち直ったときのワーッ!という感じを伝えたいと思うようです。
アメリカの「キャンプ・ライジング・サン」に参加した生徒は、文化祭で自分の体験を語りました。ある生徒は、自分の海外体験を伝えたいと、出身小学校の総合学習の時間をいただいて小学生に話しに行きました。小学校の校長先生から、「市川学園の生徒がこんな依頼に来たが・・」と問い合わせがあって初めて知ったくらい、生徒はどんどん行動的になっています。他学年の学年主任に交渉して、学年集会でプレゼンした生徒もいます。本当にいろいろなところに行って、自由に発信し始めている・・。
また海外経験は、生徒をとてもたくましくします。この夏、模擬国連のセミナーに参加したいと『トビタテ!』で、人生初めてのパスポートでアメリカに行った生徒は、自分で航空券を手配し、大学で学び、ホームステイをしてきました。渡航前は不安もあったようで教師もサポートしていましたが、自信をつけて帰国。文化祭でも発表し、11月の全日本高校模擬国連大会に出場します。
生徒は、海外でできた友達と、今度来たら…、今度行ったら…、とSNSでどんどん繋がっています。住んでいるところや学校、国という既存の枠や壁、カテゴライズを軽々と超えていきますね。