特集 グローバルシティズンを育てる私学の教育-----私学で育つ! ボーダーを越えて協働する未来の推進役
特集 グローバルシティズンを育てる私学の教育-----私学で育つ! ボーダーを越えて協働する未来の推進役
パンデミックや戦禍の前にたちすくみそうになる今こそ、グローバルシティズン(世界市民)が育つ、私学の学びに注目します。そこではどのように世界の課題に向き合い、未来の担い手を育てる教育が行われているのでしょうか。
グローバルシティズンとは、多様な国や地域、文化を構成する「世界」で生きる、自立した「市民」。他者を理解し尊重しあいながら協働する世界を実現する人々と言い換えることができるかもしれません。
今号では、それぞれの学校で実施されている教育プログラムの狙い、内容から、グローバルシティズンを育てる取り組みを考えます。
***「SDGs」で学ぶ
語学教育や海外研修の有無は、私学の魅力の一面に過ぎません。その学びが、世界の未来とどのようにつながるかということに、真価が現れます。
たとえば、多くの学校が探究の時間やオリジナルプログラムで取り組んでいる、「持続可能な開発のための目標(SDGs)」との関わり方も一つの視点となるでしょう。
きっかけが17のゴールのうちいずれか一つへの関心だったとしても、探究して掘り下げていくうちに、ゴールは関係しあい単独では成り立たないことに気づく、そんなプログラムがあります。●桐蔭学園の模擬国連の活動をベースにした「15歳のグローバルチャレンジ」や●三田国際学園の「GlobalEducation」のように、教科の枠に縛られず現代社会の諸問題に取り組む探究的な授業も少なくありません。こうした授業は、一方的に教える授業ではなく、チーム型のPBL型で行われるのが特徴です。
また●芝浦工業大学附属が、SHIBAURA探究で「社会的課題を理工系の知識で解決する能力を養成する」とする、あるいは●清泉女学院の「倫理」が「キリスト教的価値観だけでなく宗教、思想、現代社会の諸問題などについてディスカッションする」といった学校ごとの特徴も、注目したいポイントです。
●ドルトン東京学園の新校舎のような、建物自体が〝環境教材〟となる例も見逃せません。
***学びからアクションを生む
探究の学びを自発的な行動に繋げていく生徒も少なくありません。●関東学院の高校生が探究活動で学んだ「多様性と共生」を横浜市のロゲイニングマップにアウトプットしたのは、そうした例のひとつです。●工学院大学附属で高校2年次に行われるGlobalProjectは、訪問国(地)の課題をSDGsと紐づけて解決するプロジェクト型の全員参加の研修です。同校の中学では地元八王子プロジェクトに取り組んでいるように、中高を見通したプログラムが組めるのは6年一貫教育の強みです。●東洋英和女学院の生徒有志の団体TEAMは、ミャンマーに寺子屋を建てる活動をしています。高1・2の探究活動で社会課題を学ぶことは自発的な行動を生む土壌になっています。これは、宗派は違えど同じくキリスト教を精神的土台とする●立教女学院の生徒が土曜集会から模擬国連活動に取り組むようになったこととも合い通じます。
ターム留学や、学校ごとの海外研修やイートン校サマースクールにみられる自分の生活圏から踏み出す体験も、グローバルについて考えるきっかけになるのは言うまでもありません。価値観が揺さぶられたり、文化の違いにたじろいだりすることもあるでしょう。それを中高時代に肌で感じることの意味は大きいはずです。この2年はコロナ禍により制限されてきましたが、徐々にできることが増えてきました。
***「世界の同世代」と学ぶ
コロナ禍にあって海外の高校との交流はオンラインに頼らざるを得ない状況が続きましたが、同世代同士の対話はとても刺激的な体験となります。
●光英VERITASは、オーストラリアの高校とのオンライン交流や台湾上級学校とのペンパル交流を行っています。また学校の体制や、海外の教育機関などとの連携も、世界への扉を開くことになります。●文化学園大学杉並は、カナダ・ブリティシュコロンビアのカリキュラムで学ぶダブルディプロマを実施。●湘南白百合学園は、英国イートンカレッジが展開するプログラムEtonXで、日本にいながらコミュニケーション以上の英語体験を実現します。ユネスコスクール(●田園調布学園、●トキワ松学園、●新渡戸文化、●湘南学園、●北鎌倉女子学園(申請中)など)や、文部科学省によるWWLコンソーシアムの一員(●品川翔英など)となって、ネットワークを生かす学校もあります。
***「幸せ」を考える
中高時代には、知識を獲得すると同時に、深く考える機会が用意されています。
●女子美術大学付属では、オリジナル教材による授業Art Englishで英語にアートのテーマを取り入れて興味やモチベーションを刺激します。●巣鴨が主催して行っているDouble Helix(DH)は、参加8校の生徒が、イギリス人講師の出す課題に3ヶ月にわたって取り組み、知識と思考力が繋がっていることを実感するプログラム。●大妻中野で行われているフロンティアプロジェクトチームの活動は、学年縦断チームで外部組織や大学とも連携し社会課題の解決に貢献できることを目指しています。●山脇学園では、今年度より〝文化コード〟で世界を理解しようというプログラムをスタートさせました。女子大学と共同でジェンダーバイアスを考える特別授業を行っている男子校もあります。
こうしたプログラムを通して、生徒たちは、なぜ学ぶのか、身体的・社会的・精神的によく生きる(ウエルビーイング)とは何かを考え始めます。
今回、国という枠組みを超えて活躍している卒業生のジャンル、活動をNetty Land会員校にアンケートしたところ、実に多彩な〝進路〟がありました。
国際機関や企業で働いている、アスリートとして世界で競いあっている、アーティスト・クリエイターとして作品を発表している、ジャーナリストとして発信している、研究者として海外大学で学んでいる、ソーシャルビジネスを立ち上げている・・。国の内外問わず、既存の職業や仕組みにとどまらず人々と協働する姿が浮かんできました。
東京大学工学部が、●大妻、●昭和女子大学附属昭和の生徒と懇談しイベントを行うなど、進路の多様性を実現しようとする現在進行形の動きからも目が離せません。
「グローバルシティズンとは、世界中どこに行っても通用する人」と語るのは●洗足学園・校務主任の玉木大輔先生です。模擬国連や海外大学合格の実績で知られますが、実は中学入学時には引っ込み思案な生徒も少なくないそうです。「思考力などのリテラシー、そして人間力、協働する力であるコンピテンシー」を教育の柱とする中高の学びの成果でしょう。
グローバルシティズンが育つ教育とは? そんな視点で学校選びをしてみてはいかがでしょうか。
※アンケート結果もぜひご覧ください。