特集

神奈川学園 探究学習の集大成「探究提言発表会」

2019年12月、神奈川学園の高校2年生による「探究提言発表会」が開催されました。 *************************************************** 『Kanagawaプロジェクト』とは ***************************************************  神奈川学園の「探究学習」は、『Kanagawaプロジェクト』と呼ばれ、学園の学びに大きな役割を果たしています。 『Kanagawaプロジェクト』は、ホームページでは次のように説明されています。  「『Kanagawaプロジェクト』は、学年ごとに設けられたテーマを、一人ひとりが自らの夢を見つけるために「社会」と「国際舞台」に出ていくプログラムです。学年ごとにテーマが設けられていますが、最大の柱は中3の「多文化共生」と高1の「日本の課題」。中3では、1週間あまりの期間、学年全員がホームステイを含む海外研修(オーストラリア、ニュージーランドから選択)を体験します。高1では沖縄、水俣、四万十川、奈良京都、東北から1方面を選び、参加する「国内FW」を実施。現地では、第一線で活躍する方々、大学の先生、大学生等と交流する中で、現代の日本が抱える課題について学び、考え、自らの行動に移していきます」  高校2年生で取り組む「探究」の授業では、一人ひとりが自分の問題意識によって課題をたて、最終的には、社会に提言を行うことを目指して、学習を進めています。各人が興味関心のあるテーマを選び、現実にある問題に問いを立て、個人やグループで文献を調べたりフィールドワークを行ったり、協働作業でまとめ、解決への「提言」を発表します。そうして迎えた12月16日の「探究提言発表会」。先に高2年生の中で行われた発表会で生徒・教員の投票によって選ばれた各グループの代表班がプレゼンテーションを行いました。中学1年生、3年生、高校2年生のほか、保護者の姿も見られました。また、それぞれのテーマに関する分野で働く方々が来賓として招かれ、客席で発表を見守っていました。  今回の発表会自体も生徒が組み立て、運営したことは、担当の先生方にとっては大きな喜びでした。「“探究学習とは何か”を後輩や来場の皆様に説明するのは自分だと思っていたのですが、生徒が『自分たちでやります』と言ってきたので、生徒たちに任せることにしました」と話す学年主任の高橋文恵先生。生徒たちにとっては、自分たちの探究テーマの発表に留まらず、入学してから5年間の探究学習を振り返ることにもつながったようです。 提言発表会冒頭の「探求学習について」で、校外学習や宿泊学習、そして事前学習や振り返りまで、体験するだけでは終わらない神奈川学園の学びのサイクルについ触れられていました。会場の中学1年生、3年生に向かって、「未来への提言を、一人ひとりの向けられたメッセージと思って聞いてください」と語りかけた高校2先生の言葉から、後輩たちも学び、深めることの意味を感じたのではないでしょうか。 *********************************************************** 提言に耳を傾けてもらう工夫を凝らした発表 ***********************************************************  開会宣言、そして探究学習の説明、流れるように各グループの代表者たちの発表へ、生徒による進行で会が進んでいきます。  『人権・生命倫理グループ』からは「学校の中のユニバーサルデザイン」班が登場。この班は、実際に校舎を車椅子で移動し、不便に感じたことや危険な箇所を検証した結果から、解決策を提言としてまとめ発表しました。提言に費用面の比較という具体化に際しての視点を加えており、「やらなくてはならないと思わせる説得力を感じさせた」との声があがりました。  『社会構造・格差グループ』からの代表発表は「人権宣言」でした。9月から10月にかけて人権を考えるためのカリキュラムを考案し、学校で生徒一人ひとりの意識を変えることを提言。「人を見た目で判断しない」とまとめた背景には、高校1年の国内フィールドワークで訪れた水俣での水俣病患者との出会いや、ハンセン病患者について学んだことから人権を考えた経験がありました。講評では、「建前として差別は良くないとわかっているのに差別がなくならない現状を前提に、差別は誰の心にもあるという観点からアプローチしても良かったかもしれない」という指摘も。頷く生徒の姿もありました。  『環境・自然科学グループ』からは、身近にできる環境対策として「トイレのふた」に着目した班が発表。工夫を凝らした動画で、暖房便座トイレのふたを閉めることが二酸化炭素排出量削減や電気代節約に繋がることを提言し、各家庭が取り組めば杉の木25本分の削減と2万4000円の節約になるという数字で示しました。   『文化・芸術グループ』は、地元・横浜の「創造都市横浜」の理念を端緒に、直島や越後妻有の芸術によるまちづくりの事例、黄金町の再開発を紹介しながら、日本のまちづくりの課題に迫る「横浜改革」を発表した班が代表。10カ国以上の人たちが生活するいちょう団地や大和定住促進センターを訪ね、現場を見て感じ、考えたことを踏まえ、いちょう団地で横浜トリエンナーレを開催することを、その効果を挙げて提言にまとめました。「周辺住民や住民の高齢者がどのように思うか考えながらやることが大切。そのためにはさらに広い視野が必要になる」という横浜美術館副館長兼横浜トリエンナーレ組織委員会事務局長五十嵐誠一さんは、事前にいちょう団地に足を運んだ上でコメント。  『平和・多文化共生グループ』は、「移民・難民受け入れ政策について」を発表。「移民・難民を受け入れるべき」という結論に至った理由を、諸外国の現状、日本の現状と課題から一つずつ解きほぐしていきました。「外国人を労働者として見ていて生活者として見ていないのではないか」という生徒の指摘は「その通り」(大和市国際化協会 小西永里子さん)。「未来はみんなが作っていく、明るい未来を感じた」(沢渡三ツ沢地域ケアプラザ生活支援コーディネーター 今村治子さん)。「移民、難民は同列では語れないが、高校生らしいアグレッシブさを感じた」(国連UNHCR協会 天沼耕平さん)。これからも自分ごととして捉えてほしいという期待がコメントの端々ににじみ出ました。  5つのグループの中でいくつかの班を作っての探究活動。今回は、代表者だけの発表でしたが、社会構造・格差グループの発表では、ジェンダー班とLGBT班もそれぞれの探究テーマを紹介し、同じグループのなかにも多様な視点があり、様々な活動を展開したことがわかり、探究学習から一人ひとりが社会に関心を持つ日常をうかがわせ、もっと多くの発表を聞きたいと思ったのは私だけではないはずです。

桐朋女子中学校「生徒が作る説明会(大人が出てこない説明会)」

2019年10月27日(日・10:00〜12:00)の桐朋女子第2回中学校説明会は、「桐朋女子史上初となる生徒が作る説明会(大人が出てこない説明会)」ということで、想像を逞しくしながら学校へ向かいました。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 生徒・生徒・生徒 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  学校に着き、初めに出会った大人は、校門脇の守衛さん。 そこから先はお迎え、誘導、受付に至るまで全て生徒。タイトル通りだわ・・と思いつつ受付に並び順番を待ちました。  生徒が受付で名簿(事前申込)をチェックしながら、何やらシールを配っているのが見えました。おぉ、なんだか仕掛けが姿を現し始めたような・・。 ワクワクのスイッチON。  受験生に渡す名刺大のシール(5色)にはファーストネームを手書き、同伴の保護者にもシールを渡し、それぞれ見えるところに“入場券”のように貼って会場(ポロニアホール)へ向かいました。ホールのエントランスに置かれた長机には学校案内パンフレットや要項、帰国生教育リーフレット、生徒が作ったパンフレット、持ち帰り用の手提げなどが並べられており、必要なものだけピックアップしてからホール内への導線ができていました。資料フルセットを配る(受け取る)ということから解放されているのもありがたいです。  さて座席はシールの色別にゾーンが決められており、緩やかに位置を指定されます。前半分くらいは受験生用で、背もたれには「謎解き! 校内探検」という張り紙。後ろ半分が保護者席。そして開会まで、前方スクリーンには、文化祭・体育祭はもちろん、休み時間、掃除、部活等々の生徒同士の元気いっぱいの日常生活が垣間見える映像が流れており、百の言葉よりこの笑顔というくらいに、これでもか!と学校生活の充実ぶりが伝わってきます。    開会宣言の後、まずギター部によるウエルカム演奏が3曲。仲間の音を聞き、顔を見合わせながら奏でるハーモニーに緊張が解れていきます。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 桐朋女子の生活について □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  さあ、説明会。司会は高校2年生のお二人。  「初めに校長挨拶です」ということで、「本日2人目に出会う大人が校長先生か・・・」と思いきや、「本日は生徒主体の説明会なので、校長先生も動画です」。この時、極めて平均的、形式に慣れ切った私が待っていたのは「校長先生が教育理念を語り挨拶をしている動画」でしたが、スクリーンに映し出されたのは「生徒が校長先生にインタビューしている動画」。しかも「桐朋女子の、直したいところは何か」「魅力を伝えるためにメディアを利用して宣伝しないのはなぜ」という、およそ校長挨拶では出てこないであろう質問でした。インタビュー後の校長先生の感想、生徒の感想までトータルで見事に、挨拶パートになっていたのでした。  続いて高校1年生3人による「桐朋女子の生活について」。たっぷり時間が取ってあり、『授業』『生徒・日常生活』『行事』『その他』に分けて、三者三様の経験を披露してくれました。3人の背景が、中学入試で入った帰国生、高校入試での入学、併設小学校からの内進生とバラバラで、それもまた自然に桐朋女子の多様性をさりげなくみせる心憎い人選。 *授業  特徴としてあげられたのは、まず“レポートが多い”、“テストが多い”。そんな、ちょっとネガティブに取られそうなことは、自分たちが上達していること、中間・期末という単位ではなく単元ごとのテストなので力が定着する良さを伝えて、安心させてくれます。「レポートは中1の時から書いて来て、ダメ出しを受けるたびに直して上達してきました」「高校から入って、もう2〜3本書きましたが、難しいです。周りがスラスラ書いているのが刺激になります」  そして“発言が自由”という桐朋女子らしさは、いろいろな考えがあることを聞けるし、間違った答えを頭から否定しない雰囲気があることだと説明。また、7つの理科実験室を持ち、社会や理科のフィールドワークが多い特徴を“本物に触れられる”と誇らしげに語ります。剣崎の地学巡検では地層のスケッチ、レポート。都内巡検では、銀座を歩いて地元の商店街と比較など紹介された事例も、楽しそう。  曰く「授業感はあまりないけど、やった感はあるよね」 *生徒・日常生活  生徒・日常生活で挙げられた特徴は、“自由人” 、“活発”、 “個性豊か”。 「一人ひとりの居場所がある、一人ひとりが活発になれます」「休み時間に笑いが絶えない。自分たちで動物園って例えています」「毎年クラス替えがあるので、クラスをまたいで輪が広がります」「いろいろな国からの帰国生が多いので違う視点からの刺激があります」という実感から発する言葉には、大きな説得力があります。  そんな生徒ばかりだと、逆に冷めている子だっているかも、引いてしまう子もいるかも・・。そんな不安が頭をもたげますが、数多い“クラブ活動”(兼部も多いそうです)や、『行事』と『その他』の様子を聞くにつけ、入学したらそれぞれのスピードで桐朋女子の生徒になっていくのも頷けます。 *行事・その他  桐朋女子の生徒の、体育祭や文化祭にかける熱量はつとに知られていますが、“生徒が主体”であることがエネルギーを生む源になっていると感じます。学年対抗の体育祭での団結は、何より象徴的ですが、「綱引きで勝つための水2リットル飲んで体重増加作戦」のような「熱い青春」は、その発露。行事には、準備、当日、反省のサイクルがあり達成感を伴っていることは見逃せません。  “生徒と先生の距離が近い” 、“積極的・社交的になる”という、桐朋女子の特徴も、登壇した3人(途中で、もう1人、生徒会副執行長も登壇したので実質4人ですが)が語る飾らない日常の姿が示してくれたのではないでしょうか。  最後に入学してよかったこと。 「やりたいことがたくさんある。それを後押ししてくれる学校」 「人が変わったと言われます、ずっと喋っているねって」 「いろいろなタイプの友人ができます」  苦労したことも赤裸々に話してくれました。 「積極的、活発な子が多いので、考え方が合わないとケンカも多い」 「個性的な子が多いので、始めは気を遣って疲れました」 「意見がぶつかり合うのは辛いです」  でも今、桐朋女子を好きでたまらないのは、「違うから学べる」「違うから楽しい」と思えるようになるからだと、それぞれの話から伝わります。自由で活発な人が輝く場所でもあり、今の自分を変えたいと思っている人が刺激をもらえる環境でもあるのだと受け止めました。    ここで受験生は、シールの色ごとに生徒に案内されて『謎解き!校内探検』に出発。保護者対象には別プログラムが用意されていました。

生徒が変容する、巣鴨サマースクール(SUGAMO SUMMER SCHOOL)

巣鴨サマースクール(以下SSS)。イギリス人トップエリートを講師に迎え、英語によるレッスンが6日間にわたって行われます。それは英会話研修ではなく、ましてや勉強合宿でもありません。もちろん国際交流行事でもありません。希望者が多く抽選になる人気プログラム。そんなSSSの魅力に迫るべく、4日目に現地を訪れました。 【第3回 巣鴨サマースクール(SUGAMO SUMMER SCHOOL)概要】 期間 2019年8月6日〜8月11日 場所 巣鴨学園蓼科学校 他 参加者 50名(巣鴨中学校2・3年生各20名、高校1年生10名)     希望者から、各学年英語の成績上位者5名の参加を確定した後、     抽選で約40名を選出 費用 16万円 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 「イートン校サマースクールを国内で!」の思いでスタート □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 巣鴨は首都圏の男子校としては唯一のイートン校サマースクールに招待されている学校で、2002年から継続して参加しています。 イートン校は、英国一の名門校とされる、全寮制の男子パブリックスクール(私立の中等教育学校)です。同校が主催するサマースクールは、夏休みの約3週間にわたってイートン校で行われ、巣鴨生を始め日本の中高生も参加しています。参加校に提供されるプログラムは同一で、オックスフォード大学やケンブリッジ大学を卒業した講師たちによるレッスンや、現地での様々な体験に満ちた3週間を過ごします。 さて、イートン校サマースクール参加校でありながら、なぜ巣鴨は国内でのSSSを立ち上げたのでしょうか。 イートン校サーマスクールは、費用、海外渡航、時間など高いハードルがあります。そのため限られた人の体験となっていることをもどかしく感じていた国際教育部部長岡田英雅先生が、日本でオリジナルのサマースクールを作れば、もっと多くの生徒が参加できるはずだと考えたことがSSSの「種」でした。巣鴨に撒かれた岡田先生の「種」が、オリー先生というダイレクターを得てSSSとして始まったのが2017年夏。それ以来、毎年校内選考を経て、3年間で150名近くの生徒が参加してきた人気プログラムです。定員は、初年度は40名でスタートしましたが、2年目からは、少しでも多くの生徒にチャンスを与えたいと宿泊先をやりくりし50名に増設しています。 ところが今、SSSの魅力を伝えようとすると、人数のほか、目に見える「数字」や「形」がつかめないのです。現場に行くと、「今年、念願の参加」や「2回目です」という参加者もいて、熱気に充ち溢れているのに。 では、SSSには「何」があるのか。見学はわずか1日、全体のごく一部でしたが、あれから日が経つにつれ、参加した生徒や送り出した保護者の数だけ異なる答えが返ってくるのではないかと思えてきました。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSを特別にする講師陣 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSを特別にしているのが、献身的な講師陣です。2017年から続けての参加や2回目の参加など今年は8名。全員、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学を卒業し、現在は様々な分野の第一線で活躍する若手のイギリス人。それぞれの職業、場所で責任ある大きな仕事を任されている立場の方々ばかりです。 *オリー先生(オックスフォード大学卒。起業コンサルティング会社勤務)はSSSのダイレクター。講師陣を束ねます。 *ベン先生(オックスフォード大学卒。英国有数の法律事務所勤務を経て、現在は日本語の翻訳家)が教えるのは、[Superheroes](コミック)、[crest/coat of arms](紋章)。 *エミリー先生(オックスフォード大学卒。世界規模で展開する広告代理店勤務。セミプロの歌手・俳優の顔も持つ)は、[Drama]を担当。 *ジャック先生(オックスフォード大学卒。エンジニアとしてチェルシースタジアム建設に従事。元バタフライ英国代表)は、[Sport in the UK][Architecture and Landmark]。 *ノア先生(オックスフォード大学卒。イギリス政府勤務)の[Tea Ceremony][Brexit Debate]は、生徒に大人気。 *サミー先生(オックスフォード大学卒。イギリス政府勤務)は[Music][ Geography of the UK]。 *トミー先生(オックスフォード大学卒。外交官を経て内閣官房勤務)のテーマは、[Politics][Films] *トリスタン先生(ケンブリッジ大学卒。ウエリントンカレッジ歴史科教諭・寄宿舎副寮長)は[What makes Japan Japanese?][Why no female emperors?]と問いかけるレッスンを展開。 オックスフォード大学、ケンブリッジ大学という名前が参加のきっかけとなることもあるかもしれません。でも、それだけで、生徒の口からこんな言葉が出てくるでしょうか。 「あの先生に会いたくて、また参加した。再会を待ち焦がれた」 「講師の皆さんの優しさがにじみ出る人格に魅了された」 そこには、何かあるはず。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 一日は、濃く、長い。5分もゆるがせにしない。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSのレッスンは、立科白樺高原ユースホステルと、そこから車で5分ほどのところにある巣鴨学園蓼科学校の2カ所で行われます。生徒は、中学2年生・3年生混合40名4クラス(RADIOHEAD /BEATLES/OASIS/COLDPLAY)、高校1年生10名1クラス(LED ZEPPELIN)と名前にも遊び心が覗くクラスに分かれます。どのクラスも、講師8名のレッスンを必ず受けますので、スタッフ泣かせのパズルのような時間割は、生徒にとってはワクワクドキドキの連続。 一方、講師陣の一日は、本日の確認、レッスンの合間には生徒の様子の共有、進め方のアドバイスなども行われ、テーマに沿った屋内でのレッスンのほか、屋内外でのART&SPORTS。夕食後には生徒が1日の出来事を記すDIARYや、合唱などを楽しむEVENIG ACTIVITIESを行い、夜にはDIARYのチェック、レッスン振り返り、という毎日。蓼科とはいえ、8月は夏の暑さも本番。そんな中でも終日、そして毎日、生徒のためを考えた精力的なレッスンが行われていることに驚きを禁じえません。 このレッスンこそSSSの真骨頂。 まずオリー先生と岡田先生がスカイプやメールなどのツールを使い、年明けすぐに夏のSSSについての話し合いスタート(実のところ、前年のSSSが終わる時には、講師の皆さんそれぞれの心には来年がイメージされるとか)。参加してくれる講師が決まり、テーマも定まってくると、レッスンの組み立て、6日間の構成・・と話し合いが続きます。 各人の得意分野で行うレッスンも、テーマ設定やどう組み立てるかの根底には、必ず巣鴨生に何を伝えたいのかを据え、ディスカッションしながらプログラムに落とし込んでいくことから始めるので、自ずとオリジナルの内容となっています。今年のトリスタン先生のレッスンテーマ、「なぜ、女性の天皇は認められないのか」は、日本史の山崎大輔先生も加わり議論を重ね、生徒と「なぜ」を考えるプログラムとなりました。 またSSSには、各講師が自分の人生を語る[Motivation Curve]というレッスンがあり、始めに近い段階のレッスンとして概ね2日目までに組み込まれます。イギリス人エリートたちが次々語る、自らの人生の浮き沈み、成功と挫折。14〜16歳の生徒は聞きながら「失敗してもいいんだ」と感じるとともに、英語だけのレッスンへの緊張が少しずつ解け、次第に講師の人柄の虜になっていく時間でもあるようです。 1日の終わり、夕食後にその日を振り返り、英語でDIARYを書きます。日を追うごとにその文章量が増えていくと言います。上手に書こうとか正確に書こうとかいう気持ちよりも、何をしたか、どう思ったかを書き残したい思いが勝ってくるのでしょう。 では、生徒をそのように変えるレッスンとは? エミリー先生のDRAMAは、School of Rockをクラスで演じるというものです。見学したのは中学2年生のクラス。まず感情を表す言葉を生徒から引き出し、黒板のマトリックス表に書き込んで行きます。その際に、エミリー先生は、その感情そのものを演じます。表情だけでなく、姿勢にも、足の踏ん張り方から指の先の伸ばし方まで、瞬時に全身が感情で溢れる、まさに俳優。さて生徒はというと、隣り合う生徒同士で感情をぶつけ合う練習をしますが、初めから殻を破れる生徒ばかりではありません。でもエミリー先生は、全く焦るそぶりは見せません。むしろそれさえ楽しむような風情も。 「演技が難しいことではないと気づいて欲しいと思っています。面白いと感じるものを見つけてくれれば」 徐々に演じることに慣れてきたら、振り分けられた役ごとにセリフを音読。その際には抑揚や強弱などのアドバイスもあれば、一人が発音に苦労する単語は全員で確認する場面もありました。なかなか感情を込めたり、動作をつけたりすることができない状況を打ち破るのは、生徒自身です。誰かが声を大きく張り出し、大きな動きを見せます。“Really good !” 後ろの方でモジモジしている生徒も、前に出ようと足が動き始めます。 “You are very cute actors.” ためらいがちに恥ずかしげに。“Perfect!” 確かに目線が上を向き、口を大きく開き、表情が微妙に変化します。 「予想もしないリアクションが返ってきた時の喜びが好きです。生徒が自分の境界を広げる手助けをしたい、それがSSSに来たいと思う一番の理由です」というエミリー先生が、生徒のかすかな変化を瞬時に捉えて発する言葉は、まるで魔法のよう。

教科をつなぎ、体験をつなぎ、人をつないで、人格の根っこを作る田園調布学園

 「問題解決型授業」「主体的な学習」「知的好奇心を養う」「教科横断」…。多くの私学で魅力的な教育が示されるとき目にするキーワードですが、田園調布学園は学ぶことの醍醐味がぎっしり詰まった骨太なプログラムで際立ちます。  田園調布学園の学校案内パンフレット(2019年版)から、教科について説明された文章をいくつか抜粋します。何の科目かは最後で、“答え合わせ”を。 「紋章がテーマの時には、研究者の発表動画を見て理想の紋章の形や色の使い方を学び、資料を使って各パーツの呼び方や意味を理解した後、グループで話し合いを重ね、学校の紋章を作ります」 「角材を用いてトラス構造を基本とするブリッジを作製します。コンテストでは、設計についてプレゼンテーションした後、おもりで負荷をかけて行き、何㎏まで耐えられるかを検証します」 「『走れメロス』を放送劇の台本として改編し、発表します。登場人物を増やすことも認め、セリフを立ち上がらせて行きます。また効果音を追加するなどの工夫を凝らします」  取材から見えてきたのは、果汁100%ジュースのような、飲めば違いがわかる「おいしい授業」を作り出す田園調布学園の「つなぐ力」でした。 〔お話を伺った先生〕 校長 西村 弘子先生 教頭 清水 豊先生 入試広報室長 細野 智之先生 (2019年5月取材) ******************************************************* 田園調布学園の学びにつながる算数1科目入試 *******************************************************  田園調布学園は2020年入試で、2月1日午後に算数1科目入試を導入します。 先だって公表されたサンプル問題からも明らかなように、科目と出題には同校の思いを反映させる、強い意志が伺えます。  「これまでも、算数入試への関心は、ありました。午後という日程や科目数、試験内容などを検討する過程で入試は入学後の学びとつながっていて欲しいということは根底にありました。あらゆる分野に関心をもてるよう授業改革を行ううちに、生徒の進路も文系、社会科学系、理系へと自然に広がってきたこともあって、算数なら、1科目でも入学後の田園調布学園の学びにつながるあらゆるものを入れ込める道筋が見えたことが、今回の入試改革に踏み切った大きな理由です。読解⼒・論理性も算数で問える、理科や社会の要素が出てきたとしても、知らない言葉が出てきたとしても、それをつなぐ力を測ることが算数入試にはできる、と思っていますから、踏み込んでじっくり取り組んでいってほしいです。小学校の学びと入学後の学び、書物からの知識と授業での学び、人と人、あらゆることをつなげて行くのが田園調布学園の授業・教育ですから」(西村先生)  ぜひ学校ホームページで公開されている、サンプル問題の、5️⃣を見てください。 (http://www.chofu.ed.jp/wp/wp-content/uploads/2019/05/486cc639be0f7e3942fcca406cfdf61a-1.pdf)  「一見むずかしいと思う人はいるでしょう。でも、よく読めば処理は難しくありません。問題文をしっかり読もう、じっくり問いに取り組もうと、受験生に思って欲しいです」(清水先生)。  また面接については入試当日から、入学予定者面談に変更。  「面接の変更も必然的な流れでした。田園調布学園ではこれまでも思考力、表現力を問う入試問題を出していましたが、ここ数年、社会と理科で時間内に最後まで到達できず、時間内に全問解き終わらない受験生が増えていました。それならば、時間を延ばせばいいのではと考えました。そこで社会・理科の試験時間を30分から40分に延長することに。そうなると午後2時までに面接を含め全ての入試を終わらせるのは難しい。それに加えて昨今の入試当日、初めて来校する受験生もいる状況で面接するより、入学予定者との面談として実施するのが良いのではないか、という判断もありました」(細野先生)  「面談の役割は変わりません。初めて受け入れ側と受験生が顔を合わせる“出会い”の場です」(西村先生) ******************************************************* 17年で育ってきた土曜プログラム *******************************************************  2002年から回数を重ねてきたのが、「土曜プログラム」です。このプログラムに期待して入学してくる受験生も増えてきました。  学年ごとにテーマを設けて展開する「コアプログラム」と、約170の講座から自分で選ぶ「マイプログラム」で構成されます。コアプログラムでは、学年の最後に調べたことを発表する機会も設けられており、生徒たちは自分たちで学びを深める楽しさを知り、人に伝えるスキルを身につけています。またマイプログラムは、生徒自身がやりたくて取った講座でも、抽選に漏れて取った講座でも、新たな気づきを発見する機会になっているようです。「受験勉強は大変だけれど、ここではサッカーに没頭する」とか、「今やらなかったら、もう一生やらないかもしれないから日本舞踊を選ぶ」とか、選ぶ理由は様々。「身の回りの不思議。これってなぜだろう」を考えたいから講座を選ぶという生徒もいます。これらは結果的にポートフォリオにつながっていくでしょう。「内面が重層的になって来た」(西村先生)生徒の姿は土曜プログラムの成果と、学校としても自信を深めています。それでも現状に満足せず、常にブラッシュアップと課題に向き合っています。 写真は第二校舎〜創造探究棟〜の多目的選択教室での教科横断授業、土曜プログラム「理科ふしぎ不思議」、土曜プログラム「ポスターセッション」の様子

4つのプログラムを知れば、今の清泉女学院が見えてくる

皆さんは、清泉女学院というと、何を思い浮かべますか。女子校、カトリック校、豊かな自然環境、あるいは海外でも力を認められる音楽部(合唱部)、はたまた社会で活躍する卒業生の顔が頭に浮かんでくるかもしれません。では、「今の清泉女学院」というと、何をイメージするでしょうか。 私学には、それぞれに教育理念があり、それを具現化する熱い思いがあるもの。清泉女学院にも、大切にする価値観があり、学びやプログラムに多くの挑戦と情熱が注がれてきたのはいうまでもありません。そして2018年、開校70周年を迎えました。同年9月には、今の清泉女学院を知ってもらうべく、ホームページをリニューアル。それは「既存のものと、新しいもの・進化させるものとを整理することでもあり、4つのプログラムに集約されたのです」と入試広報部長の瀧康秀先生。 今年5月、瀧先生にプログラムについてお話を伺い感じたのは、70年の歴史に奢ることなく、新しい挑戦に向かうカトリック女子校の底力。皆さんも、4つのプログラムを手掛かりに、清泉女学院の6年間をイメージしてみませんか。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ INSPIRE Yourself ライフ オリエンテーション プログラム □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  学院のモットーは「神の み前に 清く 正しく 愛ふかく」。時代が移っても、変わらないモットーのもとに行われる「こころの教育」は、いわば清泉女学院の“背骨”のようなものです。中1・2という早い段階で行う宿泊研修、中3の広島訪問、高1の山手教会訪問、高2・3は校内プログラム。この6年一貫教育の中に体系化された宗教・倫理教育が、他者への思いやりや自己肯定感を育てる役割を果たしてきました。「ライフ オリエンテーション プログラム」です。  ただ、今は、急速に進化するAIといかに生くべきかという新しい課題が生まれた時代でもあります。倫理でも「AIと生きる未来」の授業があります。この授業を受けた生徒の呼びかけで、およそ5年前に生まれたのが「中高生AI倫理会議」の取り組みです。「ロボットに対する優しい眼差しは大人を驚かせました」(瀧先生)というように、生徒の発想は柔軟です。AI専門家の講演を聞いて生徒が考えまとめたAI倫理憲章を内閣府に提出し、意見をもらうことを重ねてきました。倫理の授業からは、もう一つ、生徒発プロジェクト「Seisen Peace Project」が2年前に発足しました。授業以外でも平和について話したいという生徒の思いが形になったものです。この2つのプロジェクトでは栄光学園の生徒をはじめ他校の生徒とも定期的に会議を開くなど、学校という枠を軽々と越えて課題を一緒に考える人と人のつながりを作っています。お話を伺えば伺うほど、「こころの教育」とは、決してやさしさだけではないことを、生徒の行動が示してくれるのだと思わずにいられません。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ CONNECT The World グローバル プログラム □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  清泉女学院の母体は、国際的なカトリック修道会。現在、世界25カ国に50校以上の姉妹校があります。創立以来、グローバルな視点を持ち続けてこられた一つの背景です。体験学習を大切にしながら体系化されたプログラムには、今の清泉女学院だからできることを加えるなど、「地球市民」育成の心意気が常に吹き込まれています。  体験型学習で、ニュージーランド短期留学や語学研修以外に、忘れてはならないことを二つ。一つは、栄光学園とともに参加している、ボストンカレッジ(イエズス会が運営)でのリーダー研修「Ever to Excel」です。世界中から集まった同世代200名の中で、日本からの参加は栄光生と清泉生のみ。英語力の審査を経て参加した生徒もハードに感じる充実の内容で、幾つものテーマについて、現地の教授のレクチャーや大学生とのセッションを繰り返す日々は、生徒を大きく成長させてくれるようです。初年度の昨年は3名が参加、今年は10名が参加する予定だそうです。  そしてもう一つが、長年、関係を築いてきたベトナムでのスタディー・ツアー。ベトナムを知ることで様々な課題を考え、行動を起こしていく国際理解プログラムです。日本との違いを見、戦跡から戦争を肌で感じることも大きな経験ですが、「生徒は経済成長するアジアの国の活気に、強い衝撃を受けるようです」(瀧先生)。ボランティア体験から、困っている人に手を差し伸べることを学ぶと同時に、世界の一員として行動することを自然に学んでいく体験と言えるでしょう。帰国後は、模擬国連やボランティアへ積極的に参加するなど生徒自身も自分の変化に気づくようです。  世界の国の人々とのコミュケーションツールとしての英語も、新しい取り組みを取り入れながらブラッシュアップしています。  入試改革や小学生の英語学習環境の変化から、清泉女学院でも、帰国生や英語既習者の入学が増えています。そこで2018年から、中1・2で3つに分ける英語の習熟度別授業を始めました。一般試験合格者対象のSE(Standard class English)、一般入試合格者の中で英検3級以上取得者対象のAE (Advanced class English)、帰国生試験B方式とグローバル入試合格者対象のARE (Advanced Returnees’ English)の3つに分けます。はじめの一歩から始める生徒、週2時間のネイティブ教員との授業で英語をより身近にしていく生徒、週5時間のネイティブ教員の授業で英エッセイライティングやプレゼンテーションなどの発展的活動を行う生徒、それぞれが入学時の習熟度に合わせて英語の力を伸ばしていくことで、コミュニケーション能力を磨いて行きます。中3では、High Advanced classを加えた4レベル分けで、よりきめ細やかな対応となります。  中国語、スペイン語、オンライン英会話を放課後に学べるFLIP(Foreign Language International Program)も、中2〜高2までの希望者に開講。英語以外の言語が生徒を、より広い世界に誘います。 (写真は、職場見学の発表会、内閣府を訪問したAI倫理委員会メンバー、ベトナム・スタディー・ツアーでベトナムの子どもたちと)

We Love Our School !!(女子校アンサンブル)

東京都内有数の女子伝統校が集う合同説明会「女子校アンサンブル」。女子校の魅力を伝えようと始まり、今年17回目を迎えました。 参加9校(跡見学園、学習院女子、恵泉女学園、香蘭女学校、実践女子学園、東京女学館、豊島岡女子学園、三輪田学園、山脇学園)によるミニ説明会や個別相談は情報収集の場。また9校卒業生による座談会や生徒によるプレゼンテーションは学校生活をイメージする機会となり、満足度の高いイベントとして定着しています。これらのプログラムをうまく組み合わせて、一日をフル活用するご家族も。 9校は全て「女子校」。とはいえ各校の教育理念や教育環境のもと、特色ある教育を行なっています。この日の生徒によるプレゼンテーションには、15分間にそれぞれの学校Loveがギュッと詰まっていて、志望校選びが一歩も二歩も進んだかもしれません。ここでは「生徒によるプレゼンテーション We Love Our School!!」のエッセンスをご紹介。 ------------------------------------------------------------------------------ 生徒によるプレゼンテーション We Love Our School!! ☆★☆ 跡見学園は、放送部の生徒による、「学校案内」。来校した受験生を、生徒が案内する趣向ですが、スクリーンに現れた生徒と受験生を演じる部員は声優かと思うほどの熱演を繰り広げました。間合いの取り方も絶妙。クイズを折り込みながら、校章や制服、謡曲仕舞部といった珍しい部活をさりげなく紹介したり、学校生活を分かりやすく伝えたり、まだ学校に行ったことのない人に、学校に足を運んでもらおうという気持ちを込めたプレゼンテーションでした。 ☆★☆ 次いで登場した学習院女子は、高等科生が英語でプレゼンテーション。history tradition・independent・environment、international という特徴をあげ、例としてSGLI(Student Global Leadership Institute)を語りました。世界各国の高校生との「高校生サミット」参加体験や英語力に加え、帰国後、難民について考える学内プロジェクトを立ち上げ寄付やスポーツ交流などに繋げた行動力にも触れるアカデミックなプレゼンテーション。 ☆★☆ 恵泉女学園の高校生と中学生が取り上げたのは、「サイエンス・アドベンチャー」。普段の授業でも、中1・2の実験・観察の多さや中3での探求実験がありますが、課外活動に科学を楽しむ活動があることも知ってもらいたいという狙いです。生物班、化学班、物理班、コンピューターサイエンス班の課外活動に、理系・文系問わず参加して(この日のプレゼンをした高校生も実は文系)楽しんでいる様子、スライムの実験結果を発表しつつ、その成果は恵泉デー(文化祭)をお楽しみにと、行事に誘いました。 ☆★☆ 香蘭女学校は、日本のガールスカウト部第一号をアピール。校内での野菜栽培(「西のお庭」と呼ばれる場所に果樹や野菜畑があります)やキャンプへの参加など、どのような活動をしているのか、詳しく紹介してくれました。学校だけではできない経験で、学校の外、海外の友人ができるのが、ガールスカウトの魅力でもあるけれど、ガールスカウトが特別なのではなく、香蘭女学校のなかに、海外交流、実験・検証が繰り返される理科の授業などがあることを言い添えることも忘れませんでした。 ☆★☆ 吹奏楽部がパフォーマンスを見せたのは実践女子学園。校祖下田歌子の書いた「女子の修養」の凛とした朗読と演奏のコラボでステージを作り上げ、観客の心をつかみました。終始笑顔で、軽やかにステップを踏みながら楽器を奏でる姿は、充実した学校生活を彷彿とさせるもの。それだけでも十分なのに最後に朗らかな声でこう言われてしまったら、学校関係者でなくても目頭が熱くなるのは間違いありません。「やりたいことをやりきる実践女子学園。笑顔あふれる実践女子学園が大好きです!!」 ☆★☆ 卒業生2人が息もぴったりに紹介して開演したのは、東京女学館の演劇部によるミュージカル「Annie」。一人ひとりが表情豊かに役を演じ、ホールをミュージカル劇場に変えて見せました。一際大きな拍手が沸き起こるほどの熱演! 冒頭の卒業生は国際部から東京外語大進学、今はそれぞれ大きな企業で働く社会人。ともに演劇部だった時に仲違いをしてしまった思い出話を聞いた後の舞台だけに、東京女学館で過ごす時間の濃密さを思わせてくれました。 ☆★☆ 会場を舞台に釘付けにしたミュージカルの後、ひるむことなく一人で堂々と、豊島岡女子学園の世界に連れて行ってくれたのは高2生。アカデミックデイでの発表や合唱コンクールに向けてクラスで頑張ったこと、英語弁論大会で自信がついたこと。またEnglish programや参加率100%という部活動など、多彩な活動の場や機会が、学校の中に用意されていること。それに挑戦した自分自身の経験だけに充実感たっぷり。「学校案内では伝わらない」学校の魅力が、しっかり伝わったことは間違いないでしょう。 ☆★☆ 三輪田学園の生徒は、“Do you know…(三輪田学園の○○)…?”と“No, I don’t.”の掛け合いで、学校紹介。派手な演出はないのに、学校のことをしっかり知ってもらおうという気持ちが伝わるプレゼンテーションでした。体育祭の大根切りってなあに? iPadの参加型授業っていいね。開成との混声合唱(お互いの文化祭で公演)が42年も続いているんだって。留学できるんだね。…発表の後で親子で話している声が聞こえてきました。 ☆★☆ トリの山脇学園。高1生によるプレゼンテーションはチャイムとともにスタートしました。学園内を回るかのように好きな場所を紹介してくれるので、特徴的な施設があることがわかり、授業をイメージしながら耳をすまします。サイエンスアイランドやネイティブの先生のいるイングリッシュアイランド、そして「知の技法」という独自のプログラムを展開するリベラルアーツアイランド。カフェテリアやお弁当のサービスも紹介して、胃袋も掴みます。終了後、先生に囲まれ中庭で記念撮影していましたが、日頃の生徒と先生の信頼関係を伺わせる情景。こうした場面に遭遇すると自然に笑みがこぼれてきます。 ------------------------------------------------------------------------------ 持ち時間の使い方は各校に委ねられており、9校の手法は様々。何れ劣らぬLoveのこもったプレゼンテーション揃いに、来年が、もう楽しみになってきました。 私学、女子校への関心が高まったというご家庭もあれば、別学を何となく避けてきたけれど見直したという方もあるでしょう。これから学校での説明会や参加型イベントも数多く開催されます。このプレゼンテーションに出てきた授業、施設、行事などをより深く知るためにも、気になった学校にはぜひ、足を運んでみてください。 (市川理香)

オルセースクールミュージアム in 東京女学館

「オルセー美術館公認リマスターアート展 オルセースクールミュージアム in 東京女学館」が、2019年3月24日(日)〜31日(日)、東京女学館中学校・高等学校の校舎を会場に開催されました(スクールミュージアム事務局主催。東京女学館小学校・中学校・高等学校、(株)私学妙案研究所、(株)アルステクネ共催)。 昨年、創立130周年を迎えた東京女学館の、記念事業の一つに位置付けられています。オルセースクールミュージアムは8校目の開催ですが、東京女学館では「19世紀絵画と女性」というテーマが掲げられました。 入場無料で広く一般の方々に学校を解放した、アートと学校とのコラボレーションイベントを見学しました。 *********************** ゴッホの絵が描かれた年、東京女学館が生まれた *********************** 見学したのは初日。桜の樹の下には、開門を待つ列ができていました。受付でリーフレットを受け取り、案内図を見ながら会場へ向かいます。 【ミュージアム構成】 第一会場 「『ローヌ川の星降る夜』が生まれた時代」 絵画21点 第二会場 「19世紀と女性たち」 絵画9点 東京女学館所蔵作品展示 東京女学館130周年関連資料展示 草月流生け花展示 第三会場 絵画1点、児童・生徒作品展示、ミュージアムショップ、生徒発表 講堂 講演会や生徒発表 スクールミュージアムは、フランス国立オルセー美術館(パリ)の印象派の絵画コレクションを中心とした「リマスターアート」の展示が中心。しかし上記のように東京女学館では、学校の歩みも同時に振り返る構成でした。学校が所蔵するミロやマチスのリトグラフが惜しげもなく飾られる廊下を抜けての移動、今回のために企画された英国人教師ドロセア・E・トロット先生の功績をしのぶ展示や歴史資料室、生徒によるダンスやコンサートが披露される講堂や食堂ステージなどを行きつ戻りつしながら、アートと東京女学館を堪能できる仕掛けです。 アートと学校がコラボする「スクールミュージアム」は、これまでに関東・関西7校で開催され、東京女学館は8校目の開催となります。ベーシックな企画としては、生徒が絵画案内人を務める「アートコンシェルジュ」があります。とはいえ、スクールミュージアムに決まった形があるわけではなく、学校ごとに展示のテーマやイベント企画は独自に練られ、各校の特色が反映されてきました。過去開催校の企画に関わってきたスタッフも、学校の個性が出ることに驚くほどです。 東京女学館での開催に当たっても、スクールミュージアム事務局スタッフと学校との話し合いが重ねられました。テーマ設定や当日の企画はもちろん、高校美術選択者が近隣の大使館や日赤、公的機関などに出す招待状のデザインを発案し柔軟に対応するなど、徐々に学校の思いが形になっていったそうです。 そして掲げられた展示テーマは、「『ローヌ川の星降る夜』が生まれた時代」(第一会場)、そして「19世紀と女性たち」(第二会場)。 第一会場のテーマを導いた作品、ゴッホの『ローヌ川の星降る夜』に使われているのは青と黄色の2色。ゴッホが色によって心や思想を表現しようとした、色彩に変革をもたらした絵画と言われています。そして、この絵が描かれた1888年は、東京女学館が「諸外国の人々と対等に交際できる国際性を備えた、知性豊かな気品ある女性の育成」を目指して設立された年。2018年度が130周年イヤーだった同校にとって、この作品、スクールミュージアムとの邂逅は、見えない縁に導かれたように思われてきます。 第二会場では、女性を描いた絵画とともに、「19世紀の社会と女性画家」「なぜ女性画家が少ないのか」を考察したパネルを掲示。東京女学館が女子校として歴史を積み重ねてきたこととリンクします。人としての生き方を考える作業でもあったかもしれません。 この第二会場では、東京藝術大学油画科学生(東京女学館卒業生)による、メアリー・カサットの『庭で縫う女』の公開模写が、初日から3日間、行われていました。 「数ある展示絵画の中からこの作品を選んだのはなぜ?」と聞くと、明快な答えが帰ってきました。 「メアリー・カサットの生き方が好きなので、この絵を選びました」 カサットは、男性優位な社会で、父親の反対にあいながらも、当時まだまだ少なかった女流画家として印象派に存在感を示し、後年は婦人参政権運動を支援したことでも知られています。東京女学館では、起業家、子育て後のキャリアアップ、二度目の大学進学を志す卒業生が珍しくありませんが、描かれた19世紀の女性とその時代、東京女学館の歴史が合わせ鏡のようにシンクロしていました。 第二会場となった部屋には普段は、卒業生である画家、小沢眞弓さんの作品が架けられているそうです。会期中、印象派の絵画とともに2箇所に展示されていました。 ******************** “世界で最も原画に近い、もう一枚の絵画” ******************** さて、「リマスターアート」と言っても、耳慣れない方も多いかもしれません。ここでリマスターアートについて触れておきましょう。 スクールミュージアムで展示されている“作品”が「リマスターアート」です。印刷技術は進歩し、展覧会の図録も美しい出来栄えですが、原画の持つ「力」までを再現するのは難しいものです。リマスターアートは、最新のデジタル技術とコンピューターの画像処理技術を用いて、“世界で最も原画に近い、もう一枚の絵画”を実現。本アート展の監修者、(株)アルステクネ社長の久保田光嚴氏が作り上げたテクノロジーで、再現にあたって学術的な検証(例えば作家が意図したであろう環境光、製作当時の時代背景、宗教的背景など)まで施すのが真骨頂です。リマスターアートを見たとき、絵筆のタッチ、絵の具の凸凹、質感の完成度に驚きます。美術科の教員でもある副校長・渡部さなえ先生は、「高度なものほどリアルに感じます。細かいものほど精巧。リマスターアートの技術の高さに驚きました」と語ります。 そして、通常の絵画鑑賞では決して許されないような、息がかかるほど近づいたり、ルーペで見たり、光を当てて見たりできるのも、リマスターアート展の大きな魅力です。