「なぜ」から生まれる感動体験 私学の理系教育
「なぜ」から生まれる感動体験 私学の理系教育
宇宙飛行士、医者、科学者・研究者、大工・建築士、料理人…。子どもたちの夢は、サイエンスの世界にも大きく広がります。今回は、そんな夢を叶える力を育む私学の学びに注目します。
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「不思議」を解き明かしたい気持ちを大切にする
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見渡せば、科学は私たちの日常にあふれています。高輪ゲートウエイ駅は駅舎のデザインや、ロボット・無人店舗などの最新テクノロジーが話題。
京都大学数理解析研究所の望月新一教授が数学の重要未解決問題「ABC予想」を証明。
空には、ストロベリームーンや部分日食。国際宇宙ステーション「きぼう」が東京上空を通過。「富岳」が世界一に。新型コロナウイルス、その災禍との闘い。
教育の面では、理系人材育成の必要性も叫ばれ、複雑化する社会の課題を解決する力を育てるSTEAM教育へも高い関心が寄せられています。STEAM教育は、科学(Science)、技術(Tecnology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)を総合的に学ぶことと定義され、私学でも様々な取り組みが行われています。またSTEAM教育を謳わずとも、実験・観察を通して身の回りの「なぜ」を探究し、思考力を育てるのは、私学の理系教育の特長です。
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実験・観察を重視する
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理系科目の学習サイクルは、「課題に気づき→仮説を立て→手にとって観察、また粘り強く実験→データを収集し検証→結果の発表」の繰り返しです。この時、本物に触れることは、知識を定着させるだけでなく、「感動」をもたらします。
桐朋では、各種実験室はもちろん、太陽観測所や天体ドーム、プラネタリウムなどの充実した施設(写真中)を活用した実験・観察重視の理科の授業が行われています。東北修学旅行で訪れる岩手県田老町の防潮堤見学は、東日本大震災前から続いていたように、本物に触れる姿勢をゆるがせにないのが桐朋らしさ。中学開校以来、プログラミング授業を行なっている東京電機大学では実験道具を手作りし、自分の「実験BOX」を持つことから学びがスタートします。工学系教育に存分に強みを発揮するのは、恵まれた施設や大学との連携も魅力の芝浦工業大学附属(2021年より中学共学化)です。ものづくりの基礎となる数学やテクノロジーだけでなく、STEAM教育の充実を自認するだけに、アートもおろそかにしません。
鷗友学園女子のオリジナル実験書には、理科の各分野は自然科学という大きな枠の中で体系的につながっていると言う〝哲学〟が貫かれており、卒業後も手元に残しておく生徒も少なくありません。
獨協、東京家政大学附属、ドルトン東京学園には生徒が作った本格的なビオトープがあり、環境教育の体験的な学習の場となっています。写真右は、ドルトン東京のSTEAMフェスの一コマです。
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理系教育・進学に力を入れるコース・クラスや、オリジナルのプログラム
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理系教育に力を入れるコース・クラスを編成している学校もあります。理系科目やプログラムを重視し、理系進学にも力を入れているのが特徴です。8ページの実践例をご参照ください。
次に、各校オリジナルのプログラムや活動を見てみましょう。
カリタス女子では、「Tamalogy タマロジー」で、多摩川や多摩丘陵をテーマに学んでいます。荒川のフィールドワークを行なっている栄東の理科研究部は、論文発表や地域貢献にも力を入れています。共立女子第二の「ファーム教育」、東京純心女子の「労作」、恵泉女学園や鷗友学園女子の「園芸」も、学校の教育の柱を担っています。
日本工業大学駒場で実施しているサイエンスウイークは、3日間連続して理科実験と観察を行います。グループごとにテーマを決めて取り組む、生徒に人気のプログラムです。文京学院大学女子は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定期間(2012〜2017)に「科学探究カリキュラム」を開発し、学際科学、SS数理演習など、教科や地域の壁を越えた取り組みを続けています。文部科学省が「先進的な理数教育を実施する高等学校等」として支援するSSH指定校は、各々研究課題を設定し(次ページ参照)、個性豊かな理数教育が行われています。
数学という科目に注目してみましょう。東邦大学付属東邦ではオリジナルプリント「数学トレーニングマラソン」を用い数学の力を鍛えています。本郷では伝統的に、「本数検(数学基礎学力検定試験)」という独自の数学検定試験を始業式の翌日に行ない切磋琢磨。巣鴨では、中3と高1に、数学の成績による選抜クラス「数学クラス」(入れ替えあり)を編成しています。
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「君はどこまで探究する?」
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青稜の理科の先生は、受験生の皆さんにこう呼びかけます。「(理科は)21世紀の今もなお、私達の常識をくつがえす新事実が発見されている学問です。君はどこまで探究する?」
そんな先生方と生徒が「?」を「!」に変える授業や課外活動は、コンテストや各種科学オリンピックなどでの活躍にも成果となって現れています。
「ロケット甲子園」で、普連土学園は2018年から2年連続優勝。「Honda エコマイレッジチャレンジ2019」では、芝、東京都市大学付属、関東学院、 桐光学園、工学院大学附属、山脇学園などがオリジナルマシンで燃費を競いました。
とはいえ、〝好きを伸ばしたい〟生徒ばかりではありません。今や文系・理系の境目が曖昧になり、学際的な学問も重視される時代。早稲田大学政治経済学部が入試に数学を必須としたことも、記憶に新しいところです。〝理系に苦手意識を作らない〟工夫を見ていきましょう。
田園調布学園が取り組んでいる関数を利用して絵を描く「関数グラフアート」は、いわば美術と数学の教科横断型授業で、苦手意識を持つことなく、関数に親しむことに繋がっています。カリタス女子の毎週火曜日は、「数学デー」。課題未提出・再提出の生徒が集まって課題に取り組みます。恵泉女学園では、「理科好きを増やそうプロジェクト」で、自分の興味・関心のあるテーマを探究します。課外活動の「サイエンス・アドベンチャー」(物理・化学・生物・コンピューターサイエンスの4班)にも文系・理系を問わず積極的に参加する土壌が育まれています。
施設・設備が自然科学に親しむきっかけや場を提供することもあります。
工学院大学附属は、図書館に3Dプリンタなどを備えた「Fabスペース」を設置。ものづくりだけでなく、講座やワークショップも開催されるなど、発想や刺激を共有する生徒の姿が見られます。十文字の「サイエンスパーク」(写真右)では、生徒は休み時間などに自由に理科実験器具や教材に触れることができ、理系好きでなくとも自然科学に興味がわくよう工夫されています。日出学園の「メディアルーム」は、「STEAM」「プログラミング教材」「南極・ペンギン」など多彩なエリアがあり、生徒たちは自由に使うことができます。
2020年入試で男子校の理科に、ホットケーキやクッキーを題材とした問題が出され話題となりましたが、このような身近なところにも「なぜ」が溢れています。その「なぜ」と思う好奇心を隠さず、興味・関心を深めていける学校、自分の「好き」を伸ばせる学校に出会えることをお祈りしています。その時、ここでご紹介している事例や視点が、学校選びの一助となれば幸いです。
(市川理香)
※Netty Landかわら版9月号P.6〜7より掲載。
P.8の多様な実践例は、トップページ下段「NettyLandかわら版」(PDF)よりご覧ください。