立教女学院 高3卒論発表会 2018年3月10日(土)
2000年度から始まった立教女学院の総合的な学習、「ARE学習」。高3の卒論は2003年度から続いており、ここ数年は毎年3月に、一般公開の卒論発表会が開かれています。「卒論は6年間の集大成。ARE学習は、誰のために勉強するのか、今後どう役立つのかを考えるものでもある。難しいからこそやりがいがあり、達成感がある」(発表会冒頭の挨拶で田部井校長)。
今回は、この言葉を示してあまりある発表が行われた、今年の発表会をレポートします。
まず始めに今一度、ARE学習とは、を振り返ってみましょう。
A=ask テーマ、課題を自ら求める
R=research テーマに基づき徹底的に調べる
E=express プロセスと結果を言語化して発表する
この頭文字から命名されていることからも分かるように、自学自習能力を養うもので、中学3年間は、課題設定力、表現発表力の基礎を身につけていく期間。そして高校では、1・2学年の準備段階を経て3年時に集大成として卒業論文を作成(※)します。
(※希望者。但し立教大学推薦希望者は必修選択)
テーマは実に多岐にわたり、アプローチの仕方も多彩です。発表会のプレゼンテーションでも、仮説→検証→考察→展望という論文のプロセスにおいて、現実直視、複数の視点・立場からのアプローチ、情報処理、説得、言語化などさまざまな壁を乗り越えてきたことがうかがえます。
こうした教育を受けた人たちから、高等教育や社会で活躍する人材が出てくるのは、とても自然なことと言えるでしょう。発表会では、毎年、卒業生も、卒論と自分の仕事について語ってくれ、後輩へのエールになっています。
【高3生発表】
* 「看護師不足の深刻化にみる、現在の日本社会の様相」Akari.Nさん
人材不足の看護の歴史をふまえて、来る超高齢化社会で起こる問題を考察。不足する原因の仮説を検証しながら、女性の社会進出の環境整備を解決策とする結論に導いたもの。
現場で働く外国人看護師(インドネシア人)へのインタビューを行い、また病院経理に関わる国の基準、ジェンダーギャップなど幅広い法律、統計をよく調べていることに驚きます。卒論作成をとおして、国会の法案や政府の施策に関心が向くようになったこと、社会で起こっている事柄は複雑に絡み合っていること、そして世の中に興味を持つことが自分の将来を考えることだという発見こそ、Nさんにとって、最大の成果といえるのではないでしょうか。
* 「日本における移民政策の実態と建前の乖離」 Mamika.Mさん
多くの移民がいる日本に移民政策はないのはなぜか。政府の持つ移民イメージ、歴史的背景、現実に起きている誤解など6つの仮説から、日本の構造的な問題であると位置づけ、移民を生活者として受け入れるのが日本の義務であると提起した。
群馬県邑楽群大泉町(おうらぐんおおいずみまち)でのフィールドワーク、過去、現在の国の施策、外国人に対する日本人の感情。。。社会の暗い側面にも目を背けず実態を明らかにしようと試みた、タフさを感じます。「このように社会的テーマに取り組んだ自分だが、大学は理系に進む、でも社会問題は文理問わず生きていくことに必要」とし、「ARE学習の真髄を理解した」とMさんに言わしめたのは、立教女学院のARE学習が、あらゆる力を、まさに総合的に涵養するプログラムだからでしょう。
【卒業生の話】
* 「学びの先に未来を描く〜社会人として2年が経って〜」Mao.Kさん
社会人2年目の卒業生。タイと日本のLGBTの受容の違い、差別に疑問を持ったKさんの、高3卒論テーマは「タイにニューハーフが多いのはなぜか」。大学でソーシャルビジネスを学び、現在は、世界有数の自動車部品メーカーの経営企画部で働いている。大学在学中は学生アシスタント活動や、ビジネスコンテスト参加も。
卒論では、複数の視点をもつ力(広さ)、考え抜く力(深さ)、伝える力(周りとの共有)というスキルが身に付いたと振り返ってくれました。仮説→検証、なぜという問いかけを繰り返した卒論制作の過程で、Kさんには目標ができたのだそうです。それは「途上国の生活向上に寄与したい」という想い。卒論で学び得たものは、考える基礎体力、学びを深め、学びを自分事に落とし込む土台だったことから、「答えのない問題を考える場所」だった大学でも、問題を多角的に捉え、深掘りし、答えを見つける力となったと回想。就職活動でも卒論で芽生えた「想い」は変わらず、ゆるぎない軸となったというKさんが選んだのは自動車部品メーカーです。刻一刻と変わる事業環境、厳しい職場環境の下、情報を集め、自分で考え、相手を共感させるように働く原動力は、あの「想い」。日々やりがいを持ち働くKさんは、卒論は「社会を生き抜く力の根幹となりうるもの」「自分の人生を切り開くきっかけとなりうるもの」と語り、観覧する中3生、来場者に語りかけました。卒論以外の場でも、立教女学院ではその力をみにつけられると付け加えたことも、付記しておきます。
Kさんが、就職は「与えられる立場」から「与える立場」へ変わる時という覚悟をもって社会に旅立つことができたのは、高校の卒論で考えた「なぜ」から始まった「想い」の強さを抜きに考えられない、そう思います。
(市川理香)