特集

「なぜ」から生まれる感動体験 私学の理系教育

宇宙飛行士、医者、科学者・研究者、大工・建築士、料理人…。子どもたちの夢は、サイエンスの世界にも大きく広がります。今回は、そんな夢を叶える力を育む私学の学びに注目します。 ************************ 「不思議」を解き明かしたい気持ちを大切にする ************************ 見渡せば、科学は私たちの日常にあふれています。高輪ゲートウエイ駅は駅舎のデザインや、ロボット・無人店舗などの最新テクノロジーが話題。 京都大学数理解析研究所の望月新一教授が数学の重要未解決問題「ABC予想」を証明。 空には、ストロベリームーンや部分日食。国際宇宙ステーション「きぼう」が東京上空を通過。「富岳」が世界一に。新型コロナウイルス、その災禍との闘い。 教育の面では、理系人材育成の必要性も叫ばれ、複雑化する社会の課題を解決する力を育てるSTEAM教育へも高い関心が寄せられています。STEAM教育は、科学(Science)、技術(Tecnology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)を総合的に学ぶことと定義され、私学でも様々な取り組みが行われています。またSTEAM教育を謳わずとも、実験・観察を通して身の回りの「なぜ」を探究し、思考力を育てるのは、私学の理系教育の特長です。 ************************ 実験・観察を重視する ************************ 理系科目の学習サイクルは、「課題に気づき→仮説を立て→手にとって観察、また粘り強く実験→データを収集し検証→結果の発表」の繰り返しです。この時、本物に触れることは、知識を定着させるだけでなく、「感動」をもたらします。 桐朋では、各種実験室はもちろん、太陽観測所や天体ドーム、プラネタリウムなどの充実した施設(写真中)を活用した実験・観察重視の理科の授業が行われています。東北修学旅行で訪れる岩手県田老町の防潮堤見学は、東日本大震災前から続いていたように、本物に触れる姿勢をゆるがせにないのが桐朋らしさ。中学開校以来、プログラミング授業を行なっている東京電機大学では実験道具を手作りし、自分の「実験BOX」を持つことから学びがスタートします。工学系教育に存分に強みを発揮するのは、恵まれた施設や大学との連携も魅力の芝浦工業大学附属(2021年より中学共学化)です。ものづくりの基礎となる数学やテクノロジーだけでなく、STEAM教育の充実を自認するだけに、アートもおろそかにしません。 鷗友学園女子のオリジナル実験書には、理科の各分野は自然科学という大きな枠の中で体系的につながっていると言う〝哲学〟が貫かれており、卒業後も手元に残しておく生徒も少なくありません。 獨協、東京家政大学附属、ドルトン東京学園には生徒が作った本格的なビオトープがあり、環境教育の体験的な学習の場となっています。写真右は、ドルトン東京のSTEAMフェスの一コマです。 *********************************** 理系教育・進学に力を入れるコース・クラスや、オリジナルのプログラム *********************************** 理系教育に力を入れるコース・クラスを編成している学校もあります。理系科目やプログラムを重視し、理系進学にも力を入れているのが特徴です。8ページの実践例をご参照ください。 次に、各校オリジナルのプログラムや活動を見てみましょう。 カリタス女子では、「Tamalogy タマロジー」で、多摩川や多摩丘陵をテーマに学んでいます。荒川のフィールドワークを行なっている栄東の理科研究部は、論文発表や地域貢献にも力を入れています。共立女子第二の「ファーム教育」、東京純心女子の「労作」、恵泉女学園や鷗友学園女子の「園芸」も、学校の教育の柱を担っています。 日本工業大学駒場で実施しているサイエンスウイークは、3日間連続して理科実験と観察を行います。グループごとにテーマを決めて取り組む、生徒に人気のプログラムです。文京学院大学女子は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定期間(2012〜2017)に「科学探究カリキュラム」を開発し、学際科学、SS数理演習など、教科や地域の壁を越えた取り組みを続けています。文部科学省が「先進的な理数教育を実施する高等学校等」として支援するSSH指定校は、各々研究課題を設定し(次ページ参照)、個性豊かな理数教育が行われています。 数学という科目に注目してみましょう。東邦大学付属東邦ではオリジナルプリント「数学トレーニングマラソン」を用い数学の力を鍛えています。本郷では伝統的に、「本数検(数学基礎学力検定試験)」という独自の数学検定試験を始業式の翌日に行ない切磋琢磨。巣鴨では、中3と高1に、数学の成績による選抜クラス「数学クラス」(入れ替えあり)を編成しています。

探究から行動へ。地球規模の課題を解決する力を育てる、私学のグローバル教育

この春、私たちは新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大によって長期にわたる休校に直面し、学びを止めないことの重みを実感しました。このパンデミックは、世界の「グローバル化」がもたらす課題、しかも誰もが経験したことのない「答えのない課題」を浮き彫りにしました。同時に、「未知の課題に立ち向かう力」を養い、「未来を生きる人材」を育てる教育の真価が問われています。NettyLandかわら版7・8月号では、世界を意識した今だからこそ知っておきたい、私学のグローバル教育を見ていきましょう。 □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ 他者を理解する、課題を考えるツールとしての外国語 □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ 宇宙飛行士、大西拓哉さん(聖光学院出身)、星出彰彦さん(茗渓学園出身)が国際宇宙ステーションに搭乗し、国を超えたチームで活躍した姿に、宇宙への夢をかき立てられたお子様もいることでしょう。また、新型コロナウイルス関連のニュースを見れば、国際機関や海外の医療機関で働く日本人や、さまざまな国の人々の姿が映ります。世界中のアスリート、アーティストたちは、SNSなどで国や人種を越えてメッセージを発信。グローバル社会において「ことば」、特に英語が、異なる環境や文化を持つ人と人が協働する際に必要なもの、あるいはお互いを理解するツールであることを、今さらながら痛感します。 私学の英語教育では、英語の文章を読んだり、会話したりすることに加え、英語を使いディスカッションをするところまで深める学習が展開されています。 聖学院は、英語学習歴に応じたカリキュラムやグレード別指導に定評があり、素材にも社会的出来事を扱うなど、ツールとしての英語習得を目指します。聖ドミニコ学園のインターナショナルコースでは、数学、理科も英語イマージョン。美術と音楽を英語イマージョン教育で行うのは佼成学園女子です。同校のSGコースには、お茶の水女子大学フンボルト入試に合格という成果を示した卒業生もいます。教科学習と英語学習を組み合わせたCLIL(クリル)という学習方法を導入しているのは、英語を「生きるための力」と説く関東学院六浦。また横浜女学院でも、CLILで国際問題を取り上げることが、様々な課題に当事者意識を持つ機会にもなっているようです。神田女学園や和洋九段女子(グローバルクラス)、鷗友学園女子ではオールイングリッシュで英語の授業が行われており、知識ではなく、英語で考え発信できる英語力を育てます。 外国語履修において、第二外国語を設ける学校もあります。例えば英語とともに多くの国際機関の公用語である仏語を学べるのは、暁星や白百合学園、カリタス女子、大妻中野です。日本語教育を行うフランスの高校と、仏語教育を行う日本の高校との間で交換留学を行うネットワーク「コリブリ」を通した日仏間の交流や、学校の枠を超えた国内の交流が行われ、視野を広げています。また、アジアに視点を起き中国語や韓国語・朝鮮語などを選択科目で学べる私学もあります。神田女学園の場合、日本語・英語に「教養としての第三言語」(中3からフランス語・中国語・韓国語のうち一つ選択)を加えた『トリリンガル教育』に取り組んでいます。 □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ 夢や志、好きなことを深めるクラスやコース □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ クラス名やコース名が、各校のグローバル人材育成の取り組みを象徴する学校も少なくありません。 2020年スタートの大妻多摩「国際進学クラス」、昭和学院「インターナショナルアカデミー」、意欲的な取り組みが活発に生まれています。これまでも、昭和女子大学附属昭和「グローバル留学コース」、広尾学園「インターナショナルクラス」、大妻中野「グローバルリーダーズコース」、和洋九段女子「グローバルクラス」、国学院大学久我山女子部「CCクラス( Cultural Communication Class)、淑徳「留学コース」(高校から)など、多彩なコース・クラスが支持を得てきました。2021年には、佼成学園でも「グローバルコース」がスタートします。 こうした動きに先鞭をつけたのは、東京女学館の「国際学級」でしょう。現在は語学教育に特化し、世界各国からの帰国生や国内で育った生徒、様々な背景を持った生徒でクラスを構成しています。 □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ 世界標準の教育システムで、世界中とつながる □□□■■■□□□■■■□□□■■■□□□■■■ 国際バカロレア( IB)校として世界標準の教育を実践するのもグローバル教育の一例でしょう。国際バカロレア機構が提供するIBは、グローバル人材に育つ10の学習者像(※1)を示しています。DP(※2)履修後、試験を経て国際的に通用する大学入学資格を得ることができます。認定校は、英語学習はもちろん、世界を意識したプログラムを持っています。MYP(※3)・DP認定校である玉川学園は伝統の全人教育とIB教育を融合した「IBクラス」を設置しています。同認定校の昌平は、世界を意識したプロジェクト学習が探究の場となっています。聖ヨゼフ学園(2020年共学化)は昨年7月に、東京家政大学附属は昨年9月にMYP候補校となり、認定に向けて準備を進めています。茗渓学園は、2016年のDP認定を経て2017年より「DPコース」をスタート。「日本語DP」を行ってきました。そしていよいよ2022年には「オールイングリッシュDPコース」を開設します。 ※1 10の学習写像とは、「探究する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念をもつ人」 「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスのとれた人」「振り返りができる人」 ※2 DP=Diploma Programme(ディプロマ・プログラム)。IB Diploma(国際バカロレア資格)を取得。16歳から19歳対象 ※3 MYP=Middle Years Programme(中等教育プログラム)。11歳から16歳対象 2015年に文化学園大学杉並が、カナダ・ブリティッシュコロンビア州と提携して導入したダブルディプロマ(DD)プログラムは、日本と提携先の2つの高校の卒業資格が得られるというもので、同校 DDコース一期生の国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部、海外大学の合格実績でも注目されました。現在は中2からDD準備コースが設置されています。2020年には、神田女学園がアイルランドと、麹町学園女子がニュージーランド3校、アイルランド1校と提携して、DDプログラムを始動します。同じく2020年にDDコースをスタートさせた国本女子は、カナダ・アルバータ州と提携して同じ校舎の中にKunimoto Alberta International School(KAIS)を置き、カナダに留学しているのと同じ環境でのDDプログラムを導入しました。新学期はオンラインでのスタートになりましたが、「新入生たちは、自らは責任ある行動をするとともに、まわりの人への感謝や思いやり、そして、人と人、国と国との協力関係が大切であることを考えたようだ」と、学校も一期生に期待しています。 世界的な組織や学校同士の交流で、同世代とつながることは、いまの自分への刺激になり、将来の宝物となる経験を得ることができます。そうした機会を得られる私立学校同盟、「ラウンドスクエア」に加盟しているのは、玉川学園、八雲学園、啓明学園、工学院大学附属です ラウンドスクエアには、国際社会で活躍できる若者の育成を目指す世界50カ国以上から180校以上が加盟しており、「国際理解」「民主主義の精神」「環境問題に対する意識」「冒険心」「リーダーシップ」「奉仕の精神」を理念に掲げています。加盟校はそれぞれ、国際会議への出席や国を越えた同盟校間の交流を行っています。今春の休校中に啓明学園は、ラウンドスクエアが開催した「Zoom Postcard Around the World」に参加し、アメリカ、カナダ、コロンビア、ペルー、ドイツ、イギリスの高校生たちと、それぞれの国の現状と、Stay homeの過ごし方を発表し合いました。 また、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の理念に沿った取り組みや加盟校の交流を行う「ユネスコスクール」に参加している首都圏の私学は、麗澤、国際学院、八王子学園八王子、湘南学園など26校(2019年11月現在)です。 

神奈川学園 探究学習の集大成「探究提言発表会」

2019年12月、神奈川学園の高校2年生による「探究提言発表会」が開催されました。 *************************************************** 『Kanagawaプロジェクト』とは ***************************************************  神奈川学園の「探究学習」は、『Kanagawaプロジェクト』と呼ばれ、学園の学びに大きな役割を果たしています。 『Kanagawaプロジェクト』は、ホームページでは次のように説明されています。  「『Kanagawaプロジェクト』は、学年ごとに設けられたテーマを、一人ひとりが自らの夢を見つけるために「社会」と「国際舞台」に出ていくプログラムです。学年ごとにテーマが設けられていますが、最大の柱は中3の「多文化共生」と高1の「日本の課題」。中3では、1週間あまりの期間、学年全員がホームステイを含む海外研修(オーストラリア、ニュージーランドから選択)を体験します。高1では沖縄、水俣、四万十川、奈良京都、東北から1方面を選び、参加する「国内FW」を実施。現地では、第一線で活躍する方々、大学の先生、大学生等と交流する中で、現代の日本が抱える課題について学び、考え、自らの行動に移していきます」  高校2年生で取り組む「探究」の授業では、一人ひとりが自分の問題意識によって課題をたて、最終的には、社会に提言を行うことを目指して、学習を進めています。各人が興味関心のあるテーマを選び、現実にある問題に問いを立て、個人やグループで文献を調べたりフィールドワークを行ったり、協働作業でまとめ、解決への「提言」を発表します。そうして迎えた12月16日の「探究提言発表会」。先に高2年生の中で行われた発表会で生徒・教員の投票によって選ばれた各グループの代表班がプレゼンテーションを行いました。中学1年生、3年生、高校2年生のほか、保護者の姿も見られました。また、それぞれのテーマに関する分野で働く方々が来賓として招かれ、客席で発表を見守っていました。  今回の発表会自体も生徒が組み立て、運営したことは、担当の先生方にとっては大きな喜びでした。「“探究学習とは何か”を後輩や来場の皆様に説明するのは自分だと思っていたのですが、生徒が『自分たちでやります』と言ってきたので、生徒たちに任せることにしました」と話す学年主任の高橋文恵先生。生徒たちにとっては、自分たちの探究テーマの発表に留まらず、入学してから5年間の探究学習を振り返ることにもつながったようです。 提言発表会冒頭の「探求学習について」で、校外学習や宿泊学習、そして事前学習や振り返りまで、体験するだけでは終わらない神奈川学園の学びのサイクルについ触れられていました。会場の中学1年生、3年生に向かって、「未来への提言を、一人ひとりの向けられたメッセージと思って聞いてください」と語りかけた高校2先生の言葉から、後輩たちも学び、深めることの意味を感じたのではないでしょうか。 *********************************************************** 提言に耳を傾けてもらう工夫を凝らした発表 ***********************************************************  開会宣言、そして探究学習の説明、流れるように各グループの代表者たちの発表へ、生徒による進行で会が進んでいきます。  『人権・生命倫理グループ』からは「学校の中のユニバーサルデザイン」班が登場。この班は、実際に校舎を車椅子で移動し、不便に感じたことや危険な箇所を検証した結果から、解決策を提言としてまとめ発表しました。提言に費用面の比較という具体化に際しての視点を加えており、「やらなくてはならないと思わせる説得力を感じさせた」との声があがりました。  『社会構造・格差グループ』からの代表発表は「人権宣言」でした。9月から10月にかけて人権を考えるためのカリキュラムを考案し、学校で生徒一人ひとりの意識を変えることを提言。「人を見た目で判断しない」とまとめた背景には、高校1年の国内フィールドワークで訪れた水俣での水俣病患者との出会いや、ハンセン病患者について学んだことから人権を考えた経験がありました。講評では、「建前として差別は良くないとわかっているのに差別がなくならない現状を前提に、差別は誰の心にもあるという観点からアプローチしても良かったかもしれない」という指摘も。頷く生徒の姿もありました。  『環境・自然科学グループ』からは、身近にできる環境対策として「トイレのふた」に着目した班が発表。工夫を凝らした動画で、暖房便座トイレのふたを閉めることが二酸化炭素排出量削減や電気代節約に繋がることを提言し、各家庭が取り組めば杉の木25本分の削減と2万4000円の節約になるという数字で示しました。   『文化・芸術グループ』は、地元・横浜の「創造都市横浜」の理念を端緒に、直島や越後妻有の芸術によるまちづくりの事例、黄金町の再開発を紹介しながら、日本のまちづくりの課題に迫る「横浜改革」を発表した班が代表。10カ国以上の人たちが生活するいちょう団地や大和定住促進センターを訪ね、現場を見て感じ、考えたことを踏まえ、いちょう団地で横浜トリエンナーレを開催することを、その効果を挙げて提言にまとめました。「周辺住民や住民の高齢者がどのように思うか考えながらやることが大切。そのためにはさらに広い視野が必要になる」という横浜美術館副館長兼横浜トリエンナーレ組織委員会事務局長五十嵐誠一さんは、事前にいちょう団地に足を運んだ上でコメント。  『平和・多文化共生グループ』は、「移民・難民受け入れ政策について」を発表。「移民・難民を受け入れるべき」という結論に至った理由を、諸外国の現状、日本の現状と課題から一つずつ解きほぐしていきました。「外国人を労働者として見ていて生活者として見ていないのではないか」という生徒の指摘は「その通り」(大和市国際化協会 小西永里子さん)。「未来はみんなが作っていく、明るい未来を感じた」(沢渡三ツ沢地域ケアプラザ生活支援コーディネーター 今村治子さん)。「移民、難民は同列では語れないが、高校生らしいアグレッシブさを感じた」(国連UNHCR協会 天沼耕平さん)。これからも自分ごととして捉えてほしいという期待がコメントの端々ににじみ出ました。  5つのグループの中でいくつかの班を作っての探究活動。今回は、代表者だけの発表でしたが、社会構造・格差グループの発表では、ジェンダー班とLGBT班もそれぞれの探究テーマを紹介し、同じグループのなかにも多様な視点があり、様々な活動を展開したことがわかり、探究学習から一人ひとりが社会に関心を持つ日常をうかがわせ、もっと多くの発表を聞きたいと思ったのは私だけではないはずです。

桐朋女子中学校「生徒が作る説明会(大人が出てこない説明会)」

2019年10月27日(日・10:00〜12:00)の桐朋女子第2回中学校説明会は、「桐朋女子史上初となる生徒が作る説明会(大人が出てこない説明会)」ということで、想像を逞しくしながら学校へ向かいました。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 生徒・生徒・生徒 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  学校に着き、初めに出会った大人は、校門脇の守衛さん。 そこから先はお迎え、誘導、受付に至るまで全て生徒。タイトル通りだわ・・と思いつつ受付に並び順番を待ちました。  生徒が受付で名簿(事前申込)をチェックしながら、何やらシールを配っているのが見えました。おぉ、なんだか仕掛けが姿を現し始めたような・・。 ワクワクのスイッチON。  受験生に渡す名刺大のシール(5色)にはファーストネームを手書き、同伴の保護者にもシールを渡し、それぞれ見えるところに“入場券”のように貼って会場(ポロニアホール)へ向かいました。ホールのエントランスに置かれた長机には学校案内パンフレットや要項、帰国生教育リーフレット、生徒が作ったパンフレット、持ち帰り用の手提げなどが並べられており、必要なものだけピックアップしてからホール内への導線ができていました。資料フルセットを配る(受け取る)ということから解放されているのもありがたいです。  さて座席はシールの色別にゾーンが決められており、緩やかに位置を指定されます。前半分くらいは受験生用で、背もたれには「謎解き! 校内探検」という張り紙。後ろ半分が保護者席。そして開会まで、前方スクリーンには、文化祭・体育祭はもちろん、休み時間、掃除、部活等々の生徒同士の元気いっぱいの日常生活が垣間見える映像が流れており、百の言葉よりこの笑顔というくらいに、これでもか!と学校生活の充実ぶりが伝わってきます。    開会宣言の後、まずギター部によるウエルカム演奏が3曲。仲間の音を聞き、顔を見合わせながら奏でるハーモニーに緊張が解れていきます。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 桐朋女子の生活について □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  さあ、説明会。司会は高校2年生のお二人。  「初めに校長挨拶です」ということで、「本日2人目に出会う大人が校長先生か・・・」と思いきや、「本日は生徒主体の説明会なので、校長先生も動画です」。この時、極めて平均的、形式に慣れ切った私が待っていたのは「校長先生が教育理念を語り挨拶をしている動画」でしたが、スクリーンに映し出されたのは「生徒が校長先生にインタビューしている動画」。しかも「桐朋女子の、直したいところは何か」「魅力を伝えるためにメディアを利用して宣伝しないのはなぜ」という、およそ校長挨拶では出てこないであろう質問でした。インタビュー後の校長先生の感想、生徒の感想までトータルで見事に、挨拶パートになっていたのでした。  続いて高校1年生3人による「桐朋女子の生活について」。たっぷり時間が取ってあり、『授業』『生徒・日常生活』『行事』『その他』に分けて、三者三様の経験を披露してくれました。3人の背景が、中学入試で入った帰国生、高校入試での入学、併設小学校からの内進生とバラバラで、それもまた自然に桐朋女子の多様性をさりげなくみせる心憎い人選。 *授業  特徴としてあげられたのは、まず“レポートが多い”、“テストが多い”。そんな、ちょっとネガティブに取られそうなことは、自分たちが上達していること、中間・期末という単位ではなく単元ごとのテストなので力が定着する良さを伝えて、安心させてくれます。「レポートは中1の時から書いて来て、ダメ出しを受けるたびに直して上達してきました」「高校から入って、もう2〜3本書きましたが、難しいです。周りがスラスラ書いているのが刺激になります」  そして“発言が自由”という桐朋女子らしさは、いろいろな考えがあることを聞けるし、間違った答えを頭から否定しない雰囲気があることだと説明。また、7つの理科実験室を持ち、社会や理科のフィールドワークが多い特徴を“本物に触れられる”と誇らしげに語ります。剣崎の地学巡検では地層のスケッチ、レポート。都内巡検では、銀座を歩いて地元の商店街と比較など紹介された事例も、楽しそう。  曰く「授業感はあまりないけど、やった感はあるよね」 *生徒・日常生活  生徒・日常生活で挙げられた特徴は、“自由人” 、“活発”、 “個性豊か”。 「一人ひとりの居場所がある、一人ひとりが活発になれます」「休み時間に笑いが絶えない。自分たちで動物園って例えています」「毎年クラス替えがあるので、クラスをまたいで輪が広がります」「いろいろな国からの帰国生が多いので違う視点からの刺激があります」という実感から発する言葉には、大きな説得力があります。  そんな生徒ばかりだと、逆に冷めている子だっているかも、引いてしまう子もいるかも・・。そんな不安が頭をもたげますが、数多い“クラブ活動”(兼部も多いそうです)や、『行事』と『その他』の様子を聞くにつけ、入学したらそれぞれのスピードで桐朋女子の生徒になっていくのも頷けます。 *行事・その他  桐朋女子の生徒の、体育祭や文化祭にかける熱量はつとに知られていますが、“生徒が主体”であることがエネルギーを生む源になっていると感じます。学年対抗の体育祭での団結は、何より象徴的ですが、「綱引きで勝つための水2リットル飲んで体重増加作戦」のような「熱い青春」は、その発露。行事には、準備、当日、反省のサイクルがあり達成感を伴っていることは見逃せません。  “生徒と先生の距離が近い” 、“積極的・社交的になる”という、桐朋女子の特徴も、登壇した3人(途中で、もう1人、生徒会副執行長も登壇したので実質4人ですが)が語る飾らない日常の姿が示してくれたのではないでしょうか。  最後に入学してよかったこと。 「やりたいことがたくさんある。それを後押ししてくれる学校」 「人が変わったと言われます、ずっと喋っているねって」 「いろいろなタイプの友人ができます」  苦労したことも赤裸々に話してくれました。 「積極的、活発な子が多いので、考え方が合わないとケンカも多い」 「個性的な子が多いので、始めは気を遣って疲れました」 「意見がぶつかり合うのは辛いです」  でも今、桐朋女子を好きでたまらないのは、「違うから学べる」「違うから楽しい」と思えるようになるからだと、それぞれの話から伝わります。自由で活発な人が輝く場所でもあり、今の自分を変えたいと思っている人が刺激をもらえる環境でもあるのだと受け止めました。    ここで受験生は、シールの色ごとに生徒に案内されて『謎解き!校内探検』に出発。保護者対象には別プログラムが用意されていました。

生徒が変容する、巣鴨サマースクール(SUGAMO SUMMER SCHOOL)

巣鴨サマースクール(以下SSS)。イギリス人トップエリートを講師に迎え、英語によるレッスンが6日間にわたって行われます。それは英会話研修ではなく、ましてや勉強合宿でもありません。もちろん国際交流行事でもありません。希望者が多く抽選になる人気プログラム。そんなSSSの魅力に迫るべく、4日目に現地を訪れました。 【第3回 巣鴨サマースクール(SUGAMO SUMMER SCHOOL)概要】 期間 2019年8月6日〜8月11日 場所 巣鴨学園蓼科学校 他 参加者 50名(巣鴨中学校2・3年生各20名、高校1年生10名)     希望者から、各学年英語の成績上位者5名の参加を確定した後、     抽選で約40名を選出 費用 16万円 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 「イートン校サマースクールを国内で!」の思いでスタート □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 巣鴨は首都圏の男子校としては唯一のイートン校サマースクールに招待されている学校で、2002年から継続して参加しています。 イートン校は、英国一の名門校とされる、全寮制の男子パブリックスクール(私立の中等教育学校)です。同校が主催するサマースクールは、夏休みの約3週間にわたってイートン校で行われ、巣鴨生を始め日本の中高生も参加しています。参加校に提供されるプログラムは同一で、オックスフォード大学やケンブリッジ大学を卒業した講師たちによるレッスンや、現地での様々な体験に満ちた3週間を過ごします。 さて、イートン校サマースクール参加校でありながら、なぜ巣鴨は国内でのSSSを立ち上げたのでしょうか。 イートン校サーマスクールは、費用、海外渡航、時間など高いハードルがあります。そのため限られた人の体験となっていることをもどかしく感じていた国際教育部部長岡田英雅先生が、日本でオリジナルのサマースクールを作れば、もっと多くの生徒が参加できるはずだと考えたことがSSSの「種」でした。巣鴨に撒かれた岡田先生の「種」が、オリー先生というダイレクターを得てSSSとして始まったのが2017年夏。それ以来、毎年校内選考を経て、3年間で150名近くの生徒が参加してきた人気プログラムです。定員は、初年度は40名でスタートしましたが、2年目からは、少しでも多くの生徒にチャンスを与えたいと宿泊先をやりくりし50名に増設しています。 ところが今、SSSの魅力を伝えようとすると、人数のほか、目に見える「数字」や「形」がつかめないのです。現場に行くと、「今年、念願の参加」や「2回目です」という参加者もいて、熱気に充ち溢れているのに。 では、SSSには「何」があるのか。見学はわずか1日、全体のごく一部でしたが、あれから日が経つにつれ、参加した生徒や送り出した保護者の数だけ異なる答えが返ってくるのではないかと思えてきました。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSを特別にする講師陣 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSを特別にしているのが、献身的な講師陣です。2017年から続けての参加や2回目の参加など今年は8名。全員、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学を卒業し、現在は様々な分野の第一線で活躍する若手のイギリス人。それぞれの職業、場所で責任ある大きな仕事を任されている立場の方々ばかりです。 *オリー先生(オックスフォード大学卒。起業コンサルティング会社勤務)はSSSのダイレクター。講師陣を束ねます。 *ベン先生(オックスフォード大学卒。英国有数の法律事務所勤務を経て、現在は日本語の翻訳家)が教えるのは、[Superheroes](コミック)、[crest/coat of arms](紋章)。 *エミリー先生(オックスフォード大学卒。世界規模で展開する広告代理店勤務。セミプロの歌手・俳優の顔も持つ)は、[Drama]を担当。 *ジャック先生(オックスフォード大学卒。エンジニアとしてチェルシースタジアム建設に従事。元バタフライ英国代表)は、[Sport in the UK][Architecture and Landmark]。 *ノア先生(オックスフォード大学卒。イギリス政府勤務)の[Tea Ceremony][Brexit Debate]は、生徒に大人気。 *サミー先生(オックスフォード大学卒。イギリス政府勤務)は[Music][ Geography of the UK]。 *トミー先生(オックスフォード大学卒。外交官を経て内閣官房勤務)のテーマは、[Politics][Films] *トリスタン先生(ケンブリッジ大学卒。ウエリントンカレッジ歴史科教諭・寄宿舎副寮長)は[What makes Japan Japanese?][Why no female emperors?]と問いかけるレッスンを展開。 オックスフォード大学、ケンブリッジ大学という名前が参加のきっかけとなることもあるかもしれません。でも、それだけで、生徒の口からこんな言葉が出てくるでしょうか。 「あの先生に会いたくて、また参加した。再会を待ち焦がれた」 「講師の皆さんの優しさがにじみ出る人格に魅了された」 そこには、何かあるはず。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 一日は、濃く、長い。5分もゆるがせにしない。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ SSSのレッスンは、立科白樺高原ユースホステルと、そこから車で5分ほどのところにある巣鴨学園蓼科学校の2カ所で行われます。生徒は、中学2年生・3年生混合40名4クラス(RADIOHEAD /BEATLES/OASIS/COLDPLAY)、高校1年生10名1クラス(LED ZEPPELIN)と名前にも遊び心が覗くクラスに分かれます。どのクラスも、講師8名のレッスンを必ず受けますので、スタッフ泣かせのパズルのような時間割は、生徒にとってはワクワクドキドキの連続。 一方、講師陣の一日は、本日の確認、レッスンの合間には生徒の様子の共有、進め方のアドバイスなども行われ、テーマに沿った屋内でのレッスンのほか、屋内外でのART&SPORTS。夕食後には生徒が1日の出来事を記すDIARYや、合唱などを楽しむEVENIG ACTIVITIESを行い、夜にはDIARYのチェック、レッスン振り返り、という毎日。蓼科とはいえ、8月は夏の暑さも本番。そんな中でも終日、そして毎日、生徒のためを考えた精力的なレッスンが行われていることに驚きを禁じえません。 このレッスンこそSSSの真骨頂。 まずオリー先生と岡田先生がスカイプやメールなどのツールを使い、年明けすぐに夏のSSSについての話し合いスタート(実のところ、前年のSSSが終わる時には、講師の皆さんそれぞれの心には来年がイメージされるとか)。参加してくれる講師が決まり、テーマも定まってくると、レッスンの組み立て、6日間の構成・・と話し合いが続きます。 各人の得意分野で行うレッスンも、テーマ設定やどう組み立てるかの根底には、必ず巣鴨生に何を伝えたいのかを据え、ディスカッションしながらプログラムに落とし込んでいくことから始めるので、自ずとオリジナルの内容となっています。今年のトリスタン先生のレッスンテーマ、「なぜ、女性の天皇は認められないのか」は、日本史の山崎大輔先生も加わり議論を重ね、生徒と「なぜ」を考えるプログラムとなりました。 またSSSには、各講師が自分の人生を語る[Motivation Curve]というレッスンがあり、始めに近い段階のレッスンとして概ね2日目までに組み込まれます。イギリス人エリートたちが次々語る、自らの人生の浮き沈み、成功と挫折。14〜16歳の生徒は聞きながら「失敗してもいいんだ」と感じるとともに、英語だけのレッスンへの緊張が少しずつ解け、次第に講師の人柄の虜になっていく時間でもあるようです。 1日の終わり、夕食後にその日を振り返り、英語でDIARYを書きます。日を追うごとにその文章量が増えていくと言います。上手に書こうとか正確に書こうとかいう気持ちよりも、何をしたか、どう思ったかを書き残したい思いが勝ってくるのでしょう。 では、生徒をそのように変えるレッスンとは? エミリー先生のDRAMAは、School of Rockをクラスで演じるというものです。見学したのは中学2年生のクラス。まず感情を表す言葉を生徒から引き出し、黒板のマトリックス表に書き込んで行きます。その際に、エミリー先生は、その感情そのものを演じます。表情だけでなく、姿勢にも、足の踏ん張り方から指の先の伸ばし方まで、瞬時に全身が感情で溢れる、まさに俳優。さて生徒はというと、隣り合う生徒同士で感情をぶつけ合う練習をしますが、初めから殻を破れる生徒ばかりではありません。でもエミリー先生は、全く焦るそぶりは見せません。むしろそれさえ楽しむような風情も。 「演技が難しいことではないと気づいて欲しいと思っています。面白いと感じるものを見つけてくれれば」 徐々に演じることに慣れてきたら、振り分けられた役ごとにセリフを音読。その際には抑揚や強弱などのアドバイスもあれば、一人が発音に苦労する単語は全員で確認する場面もありました。なかなか感情を込めたり、動作をつけたりすることができない状況を打ち破るのは、生徒自身です。誰かが声を大きく張り出し、大きな動きを見せます。“Really good !” 後ろの方でモジモジしている生徒も、前に出ようと足が動き始めます。 “You are very cute actors.” ためらいがちに恥ずかしげに。“Perfect!” 確かに目線が上を向き、口を大きく開き、表情が微妙に変化します。 「予想もしないリアクションが返ってきた時の喜びが好きです。生徒が自分の境界を広げる手助けをしたい、それがSSSに来たいと思う一番の理由です」というエミリー先生が、生徒のかすかな変化を瞬時に捉えて発する言葉は、まるで魔法のよう。

教科をつなぎ、体験をつなぎ、人をつないで、人格の根っこを作る田園調布学園

 「問題解決型授業」「主体的な学習」「知的好奇心を養う」「教科横断」…。多くの私学で魅力的な教育が示されるとき目にするキーワードですが、田園調布学園は学ぶことの醍醐味がぎっしり詰まった骨太なプログラムで際立ちます。  田園調布学園の学校案内パンフレット(2019年版)から、教科について説明された文章をいくつか抜粋します。何の科目かは最後で、“答え合わせ”を。 「紋章がテーマの時には、研究者の発表動画を見て理想の紋章の形や色の使い方を学び、資料を使って各パーツの呼び方や意味を理解した後、グループで話し合いを重ね、学校の紋章を作ります」 「角材を用いてトラス構造を基本とするブリッジを作製します。コンテストでは、設計についてプレゼンテーションした後、おもりで負荷をかけて行き、何㎏まで耐えられるかを検証します」 「『走れメロス』を放送劇の台本として改編し、発表します。登場人物を増やすことも認め、セリフを立ち上がらせて行きます。また効果音を追加するなどの工夫を凝らします」  取材から見えてきたのは、果汁100%ジュースのような、飲めば違いがわかる「おいしい授業」を作り出す田園調布学園の「つなぐ力」でした。 〔お話を伺った先生〕 校長 西村 弘子先生 教頭 清水 豊先生 入試広報室長 細野 智之先生 (2019年5月取材) ******************************************************* 田園調布学園の学びにつながる算数1科目入試 *******************************************************  田園調布学園は2020年入試で、2月1日午後に算数1科目入試を導入します。 先だって公表されたサンプル問題からも明らかなように、科目と出題には同校の思いを反映させる、強い意志が伺えます。  「これまでも、算数入試への関心は、ありました。午後という日程や科目数、試験内容などを検討する過程で入試は入学後の学びとつながっていて欲しいということは根底にありました。あらゆる分野に関心をもてるよう授業改革を行ううちに、生徒の進路も文系、社会科学系、理系へと自然に広がってきたこともあって、算数なら、1科目でも入学後の田園調布学園の学びにつながるあらゆるものを入れ込める道筋が見えたことが、今回の入試改革に踏み切った大きな理由です。読解⼒・論理性も算数で問える、理科や社会の要素が出てきたとしても、知らない言葉が出てきたとしても、それをつなぐ力を測ることが算数入試にはできる、と思っていますから、踏み込んでじっくり取り組んでいってほしいです。小学校の学びと入学後の学び、書物からの知識と授業での学び、人と人、あらゆることをつなげて行くのが田園調布学園の授業・教育ですから」(西村先生)  ぜひ学校ホームページで公開されている、サンプル問題の、5️⃣を見てください。 (http://www.chofu.ed.jp/wp/wp-content/uploads/2019/05/486cc639be0f7e3942fcca406cfdf61a-1.pdf)  「一見むずかしいと思う人はいるでしょう。でも、よく読めば処理は難しくありません。問題文をしっかり読もう、じっくり問いに取り組もうと、受験生に思って欲しいです」(清水先生)。  また面接については入試当日から、入学予定者面談に変更。  「面接の変更も必然的な流れでした。田園調布学園ではこれまでも思考力、表現力を問う入試問題を出していましたが、ここ数年、社会と理科で時間内に最後まで到達できず、時間内に全問解き終わらない受験生が増えていました。それならば、時間を延ばせばいいのではと考えました。そこで社会・理科の試験時間を30分から40分に延長することに。そうなると午後2時までに面接を含め全ての入試を終わらせるのは難しい。それに加えて昨今の入試当日、初めて来校する受験生もいる状況で面接するより、入学予定者との面談として実施するのが良いのではないか、という判断もありました」(細野先生)  「面談の役割は変わりません。初めて受け入れ側と受験生が顔を合わせる“出会い”の場です」(西村先生) ******************************************************* 17年で育ってきた土曜プログラム *******************************************************  2002年から回数を重ねてきたのが、「土曜プログラム」です。このプログラムに期待して入学してくる受験生も増えてきました。  学年ごとにテーマを設けて展開する「コアプログラム」と、約170の講座から自分で選ぶ「マイプログラム」で構成されます。コアプログラムでは、学年の最後に調べたことを発表する機会も設けられており、生徒たちは自分たちで学びを深める楽しさを知り、人に伝えるスキルを身につけています。またマイプログラムは、生徒自身がやりたくて取った講座でも、抽選に漏れて取った講座でも、新たな気づきを発見する機会になっているようです。「受験勉強は大変だけれど、ここではサッカーに没頭する」とか、「今やらなかったら、もう一生やらないかもしれないから日本舞踊を選ぶ」とか、選ぶ理由は様々。「身の回りの不思議。これってなぜだろう」を考えたいから講座を選ぶという生徒もいます。これらは結果的にポートフォリオにつながっていくでしょう。「内面が重層的になって来た」(西村先生)生徒の姿は土曜プログラムの成果と、学校としても自信を深めています。それでも現状に満足せず、常にブラッシュアップと課題に向き合っています。 写真は第二校舎〜創造探究棟〜の多目的選択教室での教科横断授業、土曜プログラム「理科ふしぎ不思議」、土曜プログラム「ポスターセッション」の様子

4つのプログラムを知れば、今の清泉女学院が見えてくる

皆さんは、清泉女学院というと、何を思い浮かべますか。女子校、カトリック校、豊かな自然環境、あるいは海外でも力を認められる音楽部(合唱部)、はたまた社会で活躍する卒業生の顔が頭に浮かんでくるかもしれません。では、「今の清泉女学院」というと、何をイメージするでしょうか。 私学には、それぞれに教育理念があり、それを具現化する熱い思いがあるもの。清泉女学院にも、大切にする価値観があり、学びやプログラムに多くの挑戦と情熱が注がれてきたのはいうまでもありません。そして2018年、開校70周年を迎えました。同年9月には、今の清泉女学院を知ってもらうべく、ホームページをリニューアル。それは「既存のものと、新しいもの・進化させるものとを整理することでもあり、4つのプログラムに集約されたのです」と入試広報部長の瀧康秀先生。 今年5月、瀧先生にプログラムについてお話を伺い感じたのは、70年の歴史に奢ることなく、新しい挑戦に向かうカトリック女子校の底力。皆さんも、4つのプログラムを手掛かりに、清泉女学院の6年間をイメージしてみませんか。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ INSPIRE Yourself ライフ オリエンテーション プログラム □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  学院のモットーは「神の み前に 清く 正しく 愛ふかく」。時代が移っても、変わらないモットーのもとに行われる「こころの教育」は、いわば清泉女学院の“背骨”のようなものです。中1・2という早い段階で行う宿泊研修、中3の広島訪問、高1の山手教会訪問、高2・3は校内プログラム。この6年一貫教育の中に体系化された宗教・倫理教育が、他者への思いやりや自己肯定感を育てる役割を果たしてきました。「ライフ オリエンテーション プログラム」です。  ただ、今は、急速に進化するAIといかに生くべきかという新しい課題が生まれた時代でもあります。倫理でも「AIと生きる未来」の授業があります。この授業を受けた生徒の呼びかけで、およそ5年前に生まれたのが「中高生AI倫理会議」の取り組みです。「ロボットに対する優しい眼差しは大人を驚かせました」(瀧先生)というように、生徒の発想は柔軟です。AI専門家の講演を聞いて生徒が考えまとめたAI倫理憲章を内閣府に提出し、意見をもらうことを重ねてきました。倫理の授業からは、もう一つ、生徒発プロジェクト「Seisen Peace Project」が2年前に発足しました。授業以外でも平和について話したいという生徒の思いが形になったものです。この2つのプロジェクトでは栄光学園の生徒をはじめ他校の生徒とも定期的に会議を開くなど、学校という枠を軽々と越えて課題を一緒に考える人と人のつながりを作っています。お話を伺えば伺うほど、「こころの教育」とは、決してやさしさだけではないことを、生徒の行動が示してくれるのだと思わずにいられません。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ CONNECT The World グローバル プログラム □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■  清泉女学院の母体は、国際的なカトリック修道会。現在、世界25カ国に50校以上の姉妹校があります。創立以来、グローバルな視点を持ち続けてこられた一つの背景です。体験学習を大切にしながら体系化されたプログラムには、今の清泉女学院だからできることを加えるなど、「地球市民」育成の心意気が常に吹き込まれています。  体験型学習で、ニュージーランド短期留学や語学研修以外に、忘れてはならないことを二つ。一つは、栄光学園とともに参加している、ボストンカレッジ(イエズス会が運営)でのリーダー研修「Ever to Excel」です。世界中から集まった同世代200名の中で、日本からの参加は栄光生と清泉生のみ。英語力の審査を経て参加した生徒もハードに感じる充実の内容で、幾つものテーマについて、現地の教授のレクチャーや大学生とのセッションを繰り返す日々は、生徒を大きく成長させてくれるようです。初年度の昨年は3名が参加、今年は10名が参加する予定だそうです。  そしてもう一つが、長年、関係を築いてきたベトナムでのスタディー・ツアー。ベトナムを知ることで様々な課題を考え、行動を起こしていく国際理解プログラムです。日本との違いを見、戦跡から戦争を肌で感じることも大きな経験ですが、「生徒は経済成長するアジアの国の活気に、強い衝撃を受けるようです」(瀧先生)。ボランティア体験から、困っている人に手を差し伸べることを学ぶと同時に、世界の一員として行動することを自然に学んでいく体験と言えるでしょう。帰国後は、模擬国連やボランティアへ積極的に参加するなど生徒自身も自分の変化に気づくようです。  世界の国の人々とのコミュケーションツールとしての英語も、新しい取り組みを取り入れながらブラッシュアップしています。  入試改革や小学生の英語学習環境の変化から、清泉女学院でも、帰国生や英語既習者の入学が増えています。そこで2018年から、中1・2で3つに分ける英語の習熟度別授業を始めました。一般試験合格者対象のSE(Standard class English)、一般入試合格者の中で英検3級以上取得者対象のAE (Advanced class English)、帰国生試験B方式とグローバル入試合格者対象のARE (Advanced Returnees’ English)の3つに分けます。はじめの一歩から始める生徒、週2時間のネイティブ教員との授業で英語をより身近にしていく生徒、週5時間のネイティブ教員の授業で英エッセイライティングやプレゼンテーションなどの発展的活動を行う生徒、それぞれが入学時の習熟度に合わせて英語の力を伸ばしていくことで、コミュニケーション能力を磨いて行きます。中3では、High Advanced classを加えた4レベル分けで、よりきめ細やかな対応となります。  中国語、スペイン語、オンライン英会話を放課後に学べるFLIP(Foreign Language International Program)も、中2〜高2までの希望者に開講。英語以外の言語が生徒を、より広い世界に誘います。 (写真は、職場見学の発表会、内閣府を訪問したAI倫理委員会メンバー、ベトナム・スタディー・ツアーでベトナムの子どもたちと)

We Love Our School !!(女子校アンサンブル)

東京都内有数の女子伝統校が集う合同説明会「女子校アンサンブル」。女子校の魅力を伝えようと始まり、今年17回目を迎えました。 参加9校(跡見学園、学習院女子、恵泉女学園、香蘭女学校、実践女子学園、東京女学館、豊島岡女子学園、三輪田学園、山脇学園)によるミニ説明会や個別相談は情報収集の場。また9校卒業生による座談会や生徒によるプレゼンテーションは学校生活をイメージする機会となり、満足度の高いイベントとして定着しています。これらのプログラムをうまく組み合わせて、一日をフル活用するご家族も。 9校は全て「女子校」。とはいえ各校の教育理念や教育環境のもと、特色ある教育を行なっています。この日の生徒によるプレゼンテーションには、15分間にそれぞれの学校Loveがギュッと詰まっていて、志望校選びが一歩も二歩も進んだかもしれません。ここでは「生徒によるプレゼンテーション We Love Our School!!」のエッセンスをご紹介。 ------------------------------------------------------------------------------ 生徒によるプレゼンテーション We Love Our School!! ☆★☆ 跡見学園は、放送部の生徒による、「学校案内」。来校した受験生を、生徒が案内する趣向ですが、スクリーンに現れた生徒と受験生を演じる部員は声優かと思うほどの熱演を繰り広げました。間合いの取り方も絶妙。クイズを折り込みながら、校章や制服、謡曲仕舞部といった珍しい部活をさりげなく紹介したり、学校生活を分かりやすく伝えたり、まだ学校に行ったことのない人に、学校に足を運んでもらおうという気持ちを込めたプレゼンテーションでした。 ☆★☆ 次いで登場した学習院女子は、高等科生が英語でプレゼンテーション。history tradition・independent・environment、international という特徴をあげ、例としてSGLI(Student Global Leadership Institute)を語りました。世界各国の高校生との「高校生サミット」参加体験や英語力に加え、帰国後、難民について考える学内プロジェクトを立ち上げ寄付やスポーツ交流などに繋げた行動力にも触れるアカデミックなプレゼンテーション。 ☆★☆ 恵泉女学園の高校生と中学生が取り上げたのは、「サイエンス・アドベンチャー」。普段の授業でも、中1・2の実験・観察の多さや中3での探求実験がありますが、課外活動に科学を楽しむ活動があることも知ってもらいたいという狙いです。生物班、化学班、物理班、コンピューターサイエンス班の課外活動に、理系・文系問わず参加して(この日のプレゼンをした高校生も実は文系)楽しんでいる様子、スライムの実験結果を発表しつつ、その成果は恵泉デー(文化祭)をお楽しみにと、行事に誘いました。 ☆★☆ 香蘭女学校は、日本のガールスカウト部第一号をアピール。校内での野菜栽培(「西のお庭」と呼ばれる場所に果樹や野菜畑があります)やキャンプへの参加など、どのような活動をしているのか、詳しく紹介してくれました。学校だけではできない経験で、学校の外、海外の友人ができるのが、ガールスカウトの魅力でもあるけれど、ガールスカウトが特別なのではなく、香蘭女学校のなかに、海外交流、実験・検証が繰り返される理科の授業などがあることを言い添えることも忘れませんでした。 ☆★☆ 吹奏楽部がパフォーマンスを見せたのは実践女子学園。校祖下田歌子の書いた「女子の修養」の凛とした朗読と演奏のコラボでステージを作り上げ、観客の心をつかみました。終始笑顔で、軽やかにステップを踏みながら楽器を奏でる姿は、充実した学校生活を彷彿とさせるもの。それだけでも十分なのに最後に朗らかな声でこう言われてしまったら、学校関係者でなくても目頭が熱くなるのは間違いありません。「やりたいことをやりきる実践女子学園。笑顔あふれる実践女子学園が大好きです!!」 ☆★☆ 卒業生2人が息もぴったりに紹介して開演したのは、東京女学館の演劇部によるミュージカル「Annie」。一人ひとりが表情豊かに役を演じ、ホールをミュージカル劇場に変えて見せました。一際大きな拍手が沸き起こるほどの熱演! 冒頭の卒業生は国際部から東京外語大進学、今はそれぞれ大きな企業で働く社会人。ともに演劇部だった時に仲違いをしてしまった思い出話を聞いた後の舞台だけに、東京女学館で過ごす時間の濃密さを思わせてくれました。 ☆★☆ 会場を舞台に釘付けにしたミュージカルの後、ひるむことなく一人で堂々と、豊島岡女子学園の世界に連れて行ってくれたのは高2生。アカデミックデイでの発表や合唱コンクールに向けてクラスで頑張ったこと、英語弁論大会で自信がついたこと。またEnglish programや参加率100%という部活動など、多彩な活動の場や機会が、学校の中に用意されていること。それに挑戦した自分自身の経験だけに充実感たっぷり。「学校案内では伝わらない」学校の魅力が、しっかり伝わったことは間違いないでしょう。 ☆★☆ 三輪田学園の生徒は、“Do you know…(三輪田学園の○○)…?”と“No, I don’t.”の掛け合いで、学校紹介。派手な演出はないのに、学校のことをしっかり知ってもらおうという気持ちが伝わるプレゼンテーションでした。体育祭の大根切りってなあに? iPadの参加型授業っていいね。開成との混声合唱(お互いの文化祭で公演)が42年も続いているんだって。留学できるんだね。…発表の後で親子で話している声が聞こえてきました。 ☆★☆ トリの山脇学園。高1生によるプレゼンテーションはチャイムとともにスタートしました。学園内を回るかのように好きな場所を紹介してくれるので、特徴的な施設があることがわかり、授業をイメージしながら耳をすまします。サイエンスアイランドやネイティブの先生のいるイングリッシュアイランド、そして「知の技法」という独自のプログラムを展開するリベラルアーツアイランド。カフェテリアやお弁当のサービスも紹介して、胃袋も掴みます。終了後、先生に囲まれ中庭で記念撮影していましたが、日頃の生徒と先生の信頼関係を伺わせる情景。こうした場面に遭遇すると自然に笑みがこぼれてきます。 ------------------------------------------------------------------------------ 持ち時間の使い方は各校に委ねられており、9校の手法は様々。何れ劣らぬLoveのこもったプレゼンテーション揃いに、来年が、もう楽しみになってきました。 私学、女子校への関心が高まったというご家庭もあれば、別学を何となく避けてきたけれど見直したという方もあるでしょう。これから学校での説明会や参加型イベントも数多く開催されます。このプレゼンテーションに出てきた授業、施設、行事などをより深く知るためにも、気になった学校にはぜひ、足を運んでみてください。 (市川理香)

オルセースクールミュージアム in 東京女学館

「オルセー美術館公認リマスターアート展 オルセースクールミュージアム in 東京女学館」が、2019年3月24日(日)〜31日(日)、東京女学館中学校・高等学校の校舎を会場に開催されました(スクールミュージアム事務局主催。東京女学館小学校・中学校・高等学校、(株)私学妙案研究所、(株)アルステクネ共催)。 昨年、創立130周年を迎えた東京女学館の、記念事業の一つに位置付けられています。オルセースクールミュージアムは8校目の開催ですが、東京女学館では「19世紀絵画と女性」というテーマが掲げられました。 入場無料で広く一般の方々に学校を解放した、アートと学校とのコラボレーションイベントを見学しました。 *********************** ゴッホの絵が描かれた年、東京女学館が生まれた *********************** 見学したのは初日。桜の樹の下には、開門を待つ列ができていました。受付でリーフレットを受け取り、案内図を見ながら会場へ向かいます。 【ミュージアム構成】 第一会場 「『ローヌ川の星降る夜』が生まれた時代」 絵画21点 第二会場 「19世紀と女性たち」 絵画9点 東京女学館所蔵作品展示 東京女学館130周年関連資料展示 草月流生け花展示 第三会場 絵画1点、児童・生徒作品展示、ミュージアムショップ、生徒発表 講堂 講演会や生徒発表 スクールミュージアムは、フランス国立オルセー美術館(パリ)の印象派の絵画コレクションを中心とした「リマスターアート」の展示が中心。しかし上記のように東京女学館では、学校の歩みも同時に振り返る構成でした。学校が所蔵するミロやマチスのリトグラフが惜しげもなく飾られる廊下を抜けての移動、今回のために企画された英国人教師ドロセア・E・トロット先生の功績をしのぶ展示や歴史資料室、生徒によるダンスやコンサートが披露される講堂や食堂ステージなどを行きつ戻りつしながら、アートと東京女学館を堪能できる仕掛けです。 アートと学校がコラボする「スクールミュージアム」は、これまでに関東・関西7校で開催され、東京女学館は8校目の開催となります。ベーシックな企画としては、生徒が絵画案内人を務める「アートコンシェルジュ」があります。とはいえ、スクールミュージアムに決まった形があるわけではなく、学校ごとに展示のテーマやイベント企画は独自に練られ、各校の特色が反映されてきました。過去開催校の企画に関わってきたスタッフも、学校の個性が出ることに驚くほどです。 東京女学館での開催に当たっても、スクールミュージアム事務局スタッフと学校との話し合いが重ねられました。テーマ設定や当日の企画はもちろん、高校美術選択者が近隣の大使館や日赤、公的機関などに出す招待状のデザインを発案し柔軟に対応するなど、徐々に学校の思いが形になっていったそうです。 そして掲げられた展示テーマは、「『ローヌ川の星降る夜』が生まれた時代」(第一会場)、そして「19世紀と女性たち」(第二会場)。 第一会場のテーマを導いた作品、ゴッホの『ローヌ川の星降る夜』に使われているのは青と黄色の2色。ゴッホが色によって心や思想を表現しようとした、色彩に変革をもたらした絵画と言われています。そして、この絵が描かれた1888年は、東京女学館が「諸外国の人々と対等に交際できる国際性を備えた、知性豊かな気品ある女性の育成」を目指して設立された年。2018年度が130周年イヤーだった同校にとって、この作品、スクールミュージアムとの邂逅は、見えない縁に導かれたように思われてきます。 第二会場では、女性を描いた絵画とともに、「19世紀の社会と女性画家」「なぜ女性画家が少ないのか」を考察したパネルを掲示。東京女学館が女子校として歴史を積み重ねてきたこととリンクします。人としての生き方を考える作業でもあったかもしれません。 この第二会場では、東京藝術大学油画科学生(東京女学館卒業生)による、メアリー・カサットの『庭で縫う女』の公開模写が、初日から3日間、行われていました。 「数ある展示絵画の中からこの作品を選んだのはなぜ?」と聞くと、明快な答えが帰ってきました。 「メアリー・カサットの生き方が好きなので、この絵を選びました」 カサットは、男性優位な社会で、父親の反対にあいながらも、当時まだまだ少なかった女流画家として印象派に存在感を示し、後年は婦人参政権運動を支援したことでも知られています。東京女学館では、起業家、子育て後のキャリアアップ、二度目の大学進学を志す卒業生が珍しくありませんが、描かれた19世紀の女性とその時代、東京女学館の歴史が合わせ鏡のようにシンクロしていました。 第二会場となった部屋には普段は、卒業生である画家、小沢眞弓さんの作品が架けられているそうです。会期中、印象派の絵画とともに2箇所に展示されていました。 ******************** “世界で最も原画に近い、もう一枚の絵画” ******************** さて、「リマスターアート」と言っても、耳慣れない方も多いかもしれません。ここでリマスターアートについて触れておきましょう。 スクールミュージアムで展示されている“作品”が「リマスターアート」です。印刷技術は進歩し、展覧会の図録も美しい出来栄えですが、原画の持つ「力」までを再現するのは難しいものです。リマスターアートは、最新のデジタル技術とコンピューターの画像処理技術を用いて、“世界で最も原画に近い、もう一枚の絵画”を実現。本アート展の監修者、(株)アルステクネ社長の久保田光嚴氏が作り上げたテクノロジーで、再現にあたって学術的な検証(例えば作家が意図したであろう環境光、製作当時の時代背景、宗教的背景など)まで施すのが真骨頂です。リマスターアートを見たとき、絵筆のタッチ、絵の具の凸凹、質感の完成度に驚きます。美術科の教員でもある副校長・渡部さなえ先生は、「高度なものほどリアルに感じます。細かいものほど精巧。リマスターアートの技術の高さに驚きました」と語ります。 そして、通常の絵画鑑賞では決して許されないような、息がかかるほど近づいたり、ルーペで見たり、光を当てて見たりできるのも、リマスターアート展の大きな魅力です。

「思考と表現」で「探究女子」を育てるトキワ松学園

図書室の授業への活用は多くの学校でも行われていますが、トキワ松学園の図書室では、伝統の図書教育に加え、中1では2017年度から、高1では2018 年度から、司書教諭による授業「思考と表現」が行われています。教科が行う授業はもちろん、トキワ松学園独自の「思考と表現」は、「探究女子」をどう育てているのでしょうか。 中学教頭の松本理子先生、司書教諭・「思考と表現」担当の勝見浩代先生、小澤慶子先生にお話を伺いました。 (見学・取材 / 2019年1月18日・1月23日) □□■トキワ松学園の図書教育■□□ トキワ松学園の生徒は、入学後、図書室でまず「目次・索引・奥付」といった「本」の基本的な知識から、図書室での調べ学習の基礎となる「請求番号」について学びます。 「2017年度学校読書調査」(全国学校図書館協議会・毎日新聞社)によれば、中学生の15.0%、高校生の50.4%が不読者という結果も出ていますが、トキワ松学園では、中1〜高2は不読者ゼロを誇り、一人当たりの図書貸出平均冊数は中学1年40.26冊、高2でも15.91冊ということからも、生徒はよく図書室を利用し、本もよく読んでいることが伺えます。 図書委員会の活動も活発で、図書室の机の上に「おすすめ本の紹介」を置いたり、新聞を発行したり、司書教諭とともに活動しています。お薦め本を紹介するディスプレイも、図書委員による工夫。決して広いとはいえませんが、中1の教室から最も近く、教科のリクエストに応えることもあり、常に生徒に寄り添った「居場所」と言える趣です。 □□■「思考と表現」の導入まで■□□ トキワ松学園が「思考と表現」を導入するに至るまで、時間をかけて様々な検討が行われてきました。 松本先生は、「まず始めに、言葉、表現、調べる、こういう力を付けたいという思いがあり、どうしたら探究というキーワードと結びつく教育ができるだろうかということから始まりました」と振り返ります。 教育改革や生徒を取り巻く環境の変化が進むなか、2013年前後に、トキワ松学園の生徒のために何を目指していくかを話し合ったブレインストーミングから「探究女子」という方向性が出ました。折しも、2014年1月に言語技術教育研究所の三森さんの講演が私学財団主催で行われ参加。2015年には国語、英語の教員たちで言語技術のワークショップや講座を受ける機会があり、それを通して、基本的な言語技術を身につけることは生徒にとって大切だという認識を改めて共有するに至ったことは、のちの議論に大きな役割を果たしたと言えるかもしれません。 30年以上積み重ねてきた図書教育で、読んだり書いたり調べたりすることが日常に自然に行われていたトキワ松学園としては、国語教育を言語技術に特化するのではなく、思考力に重点をおく教育を作っていくことを選択。国語科、英語科を中心とした教員8名という構成でプロジェクトを立ち上げたのでした。 そこでは、思考力を育む教育とは何か、そして具体的にどのように運用するか(教科や陣容など)は、他校の実践例もたくさん見学しながら、かなり時間を割いて議論したと言います。そして、議論を重ねに重ね、30年来の図書教育の土壌を持つ図書室での実施という結論に至ったのです。 「実は、受け入れるに当たって葛藤はありました」と吐露するのは勝見先生。 □□■2017年に総合学習として「思考と表現」を導入■□□ トキワ松学園の図書室は、勝見先生と小澤先生お二人に任されています。それぞれ国語と社会の教員資格を持つ司書教諭ですが、「思考と表現」を担当するなら2人でのチームティーチングにしたいと申し出たそうです。 「図書室のスタンスとしては、日常の図書室業務も大切だと思っています。それでも『思考と表現』という授業の担当を引き受けたのは、“探究力”は、今の生徒たちにとっても必要な力で、自分たちもトキワ松学園にいるからには『探究女子』を育てることに寄与しなければならないだろうと思っていたからです。図書教育で、ある程度のノウハウはありましたし、それを体系的に教えてみたいという思いも少なからず持っていました。背中を押してくださる先生もいらっしゃいましたが、二人で何度も話し合い、悩み、迷いました。でも、私たちも生産的に授業できる、面白いことができるんだ、どうせやるなら面白くしよう、トキワ松学園らしくやろうという方向に舵を切ってからは、ひたすら頑張りました」と語る勝見先生の横で、小澤先生も深くうなずきます。 □□■教科書のない教科「思考と表現」■□□ 初年度、中1の総合の枠内で「思考と表現」が実施され、2年目の2018年度から高校1年生では学校設定教科となりました。そこに至るまでには、教科書のない教科で、生徒評価をつける「授業」に足る内容を提供できるのかに議論が集中。「思考と表現」への校内理解を得るために、勝見・小澤両先生は、試行していたルーブリック評価のポイント例をあげながら、時間をかけて学内のコンセンサスを作り上げていったのです。その間、先生方を支えたのは、支援してくれた松本教頭はじめプロジェクトのメンバーの後押しと、「これは、生徒にとって必要なことだ」という思いでした。「始めてみたら案ずるより産むが易し。今の生徒の成長が、何よりも大きな説得力を持ってくれました」と、今は笑って話せるお二人です。 2学期最後の、会議席上でのこと。 「生徒が自分の思いを、言葉を尽くして人にわかるように表現するようになってきたと実感している」との発言が高1学年主任からあり、書くこと、書く内容、集中力などに著しい成長が見えるのは「思考と表現」の成果であると、図書室への感謝があったそうです。例えば、トキワ松学園では行事ごとにコメントを書いて提出していますが、「思考と表現」を授業として受けている現高1生は、その質と量が豊かになってきたことに成長を実感したと聞き、驚くとともに嬉しかったと、顔がほころびます。 彼女たちは、eポートフォリオが大学受験時に必要になってくる学年ですが、トキワ松学園ではプラットフォームを導入し、「思考と表現」での取り組みを始め、活動履歴を書き留めることに抵抗なく取り組めているようです。